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キミなしでは、もう生きられない・第1話-9
どれくらい眠りについていたのか、目が覚めると頭のなかはすっきりとクリアに軽い。あれだけ重だるかった体はすっかり全快していた。このベッドに寝かされたときには全裸だった肌にはこのホテルに備え付けられているバスローブなのか、いつのまにか着せられている。
「半藤?」
ベッドには蒼真だけしかおらず、部屋じゅうを見渡しても人の気配は感じられない。
半藤は帰ってしまったのだろうか。とつぜんのプレイは蒼真の理性がゆるゆると崩され、半藤とキスまでしてしまった。このまま去られてしまうなんて、ワンナイトで抱き捨てられた女のようで苦しい。
亮之の高校野球時代のライバルがなぜ蒼真を助けてくれたのか。面識があったかどうかを思い巡らせても記憶のどこを探しても半藤と顔を合わせた場面は見当たらなかった。思い出せなければ、もう二度と会えないかもしれない。
「おはよう、阿方さん」
不安を募らせていた蒼真は声がするほうへ勢いよく目線を走らせる。すると部屋のドアが開き、シャワーを浴びていたのかボクサーパンツだけ身に着けた半藤が顔を覗かせた。
「よく眠ってたから、起こさないようにしたんだけど、シャワーの音、うるさかったですか?」
「あ、いや……。自然と起きただけ」
「なら、よかった。ボクはこのまま店へ出勤するけど、阿方さんはどうするんです? 今日は試合ありますよね?」
「練習場へ向かうには時間が早いから、いちど部屋に帰るよ。練習の状態しだいでは登板するかもしれないから、早めには向かうけど」
半藤はハーフアップを崩したラフな髪をタオルで拭きながらベッドに腰かける。
「阿方さん」と半藤は蒼真の腰に腕を回して抱き寄せた。
「きっと今日の試合は気持ちよく投げられますよ。体はもう辛くないでしょ?」
「あぁ、たしかに。毎日、三回、抑制剤を飲まないと歩くことさえままならなかったのに、半藤と……その……ぷ、プレイというかキスしたからか、夜からずっと飲まなくても大丈夫なんだ」
パートナーでもない人とひと晩を共にしたことへの照れが込み上げて顔が火照る。コンパの後にノリで抱く見知らぬ女とはワケが違った。それにコマンドだけではなく、ねっとりとしたキスまでした。その感触を思い出そうとすると半藤の顔を見ることができない。
「まだキスだけのプレイなのにね。ボクのコマンド、阿方さんに効きがよくてホッとした」
効きが良いと半藤は言うけれど、想像していたプレイ以上の効果だ。
Domである半藤のオーラや命令は蒼真にとって理想的だった。開放して欲しい体の欲求はお預けしながら、優しく甘やかされてキスで支配される──。少しずつ半藤の体液で染められる自分に興奮すら覚えてしまった。
相性が良いDomとは半藤のような相手なのだろうか。
「きっと、また会いたいって思ってくれるはずだから、阿方さんは」
まじないのように半藤が唇に触れるだけのキスをする。
「さぁ、行かないと。プロの阿方さんに戻って」と球場へ向かうように蒼真をホテルから送り出してくれた。
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