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キミなしでは、もう生きられない・第2話-1
半藤のキスがぬくもりとして唇に残ったまま、蒼真は電車で自宅へ戻った。
それから大慌てで練習場へ向かう準備をする。
新宿御苑がすぐ近くの賃貸マンションに住む蒼真は趣味である車の運転が高じて、国産自動車メーカーの限定車を所有していた。
五台しか生産されていない貴重な車だ。
その愛車に乗り込み、都内近郊の二軍施設へ車を走らせる。
運転しながらふと気がついたのは次に半藤と会う手段がないということだ。
あの時間はほんとうにただの夢だったのではないかというくらい不思議な感覚が離れない。しかし彼とまた会ってしまったら、ふだんの生活を逸脱しそうな危うさもある。
会いたいような会うのが怖いような。
でも半藤が近くにいてくれたら、もう苦しい思いをしなくて済むのだろうか──。
そんな考えさえ過ぎってしまう。
蒼真のSub性が顕著に身体に現われたのは亮之からDomのパートナーができたと報告を受けたときだ。
「蒼真さん、おれ、弥登 さんがパートナーになりました」
ロッカールームが隣同士だった亮之にこっそりと耳打ちされた。
「えっ、弥登って、片山さんに紹介してもらったネイリストだよな?」
「はい。実はあの日からずっと店に通ってて……そのうちに付き合うようになったんです」
亮之に言われる前から薄々気づいていた。
亮之の上半身に小さなアザが無数にあり、どうみてもそれはキスマークという名のマーキング行為で間違いなかったからだ。
他のチームメイトがそれを見て「エースとなると夜も忙しそうだな」とからかっていた。きっとそれは女遊びだと彼らは思っていたのかもしれないが、蒼真だけは弥登の仕業だと確信していた。
Domパートナーがいたことのない蒼真でも、こんなにもしつこく身体に痕をつける相手をパートナーにして大丈夫なのか心配だった。
しかし他人にからかわれようが亮之はその痕を恥ずかしがることなく、むしろ誇らしげな顔をしていたのだ。
あえて口には出さずに、ただ亮之に対してモヤモヤとした気持ちを抑え込むことだけに注意を払った。
亮之とはプロになってから試合後に食事へしょっちゅう行っていたが、それ以外でも先輩のチームメイトから誘われてコンパに顔を出すこともあった。
酒癖の悪い先輩との付き合いだとノリで女を抱かなくてはならない状況にさせられる。
抱くか抱かないかは個人の自由だが、なんとなく流れで一夜を共に過ごしてしまうことも多々あった。
「きのうはお疲れでした! 蒼真さんはあの後、泊まったんすか?」
「まぁな。亮之は?」
「おれは女の子に悪いんで帰ってもらいました。それに……いま好きな人いて」
そんなふうに亮之はパートナーとしてだけではなく、弥登に恋をしていたのだ。
弥登に出会う前までは亮之に対して抱いている気持ちが同じSub性の後輩、だと思っていたのに、弥登に惹かれてゆく亮之を知るたびに胸に渦巻く黒い感情が蓄積された。
それがいまだになにかが分からない。
もしかしたら蒼真自身が亮之に「恋」をしているのではないかと不安になるほどだった。
もし亮之に恋をしてしまったら──。
それは叶わない欲望、伝えられない想いとして消化不良の試合を延々とやり続けるようなものだ。
Sub同士で恋をしても成就できない。
なぜなら恋にはカラダもココロも伴うからだ。
セックスで満たされてもプレイを伴わなければSub欲は煮え切らない。
きっとお互い苦しむだけだろう。
結末が見えているのに気持ちを伝えることなんて怖くてできない。
だから蒼真は胸に抱いた想いの正体を突き止めずに、亮之の恋を応援することしかできなかった。
弥登のおかげでSubの欲求を満たされた亮之はチームを日本一に導き、今シーズンからメジャーで投げている。
赤ん坊のように白くて柔らかい肌。
屈託のない笑顔。
誰からも愛されそうな見た目からは想像できない剛速球を繰り出すピッチング。
出会ったときから気になる存在だった。
亮之がいれば恋人なんて必要ないと思わせるくらい近くにいたから、誰かに取られたという独占欲すら抱いてしまっていた。
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