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キミなしでは、もう生きられない・第2話-3
そう言われて弥登に手を触れられたとたん、悪寒が体じゅうを駆け巡った。びくりと慌てて手を離したが、亮之はうっとりと弥登の顔を見つめている。肩につくかつかないかの明るく染めた髪をゆるく束ね、二重の目元に長い睫毛は中世の貴族のようだ。気品に溢れる所作はランクが高そうなDomの気配がある。しかし関わったら身も心もすべてを奪い取られそうな狂気を蒼真は感じた。それはとてもはっきりと。
「おふたりとも野球選手かな? あぁ、この手のひらは……ピッチャーだね。マメはあっても指先がとても長くて綺麗だから」
手指を触れられた蒼真は一刻も早く逃げ出したかった。冷や汗が止まらないくらい波動が合わない。
だけれど亮之にはその様子がなく、施術が終わると帰り際に「よかったら試合見に来てください」と弥登を誘っていた。
そのまま彼とパートナーになってしまうなんて──。
あのとき強引にでも店を出ていたら、亮之は蒼真のそばにいてくれたのだろうか。
「でもSub同士じゃ、なにもしてあげられない。亮之の白馬の王子様には、俺はなれないから──」
蒼真は頭のなかをせっかく半藤にクリアにしてもらったのに、亮之のことでいっぱいになってしまった。必死に追い払おうと何度か横に振る。
「……パートナーか」
亮之はいつだって前を向いていた。抑制剤が必要になってもぜったいにマウンドに上がろうと必死だった。
いまの自分の状態と重なり、このまま良いピッチングができなければ野球人生が終わってしまう。亮之のようにパートナーを得たらこのどん底から抜け出せるのだろうか。
「半藤航希──。俺のことをずっと知っていたみたいだけど……いったいどこで会ったんだろう」
口付けの余韻はまだ唇に残っている。彼のおかげで、なんだか今日はうまく投げられそうな気がしてならない。
「キス、だけなのにな」
セックスしたわけではないのに、簡単なコマンドを使われただけなのに、気持ちも体もいつもより軽い。
はやくボールを握りたくて蒼真はアクセルを踏み込んで練習場へ急いだ。
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