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キミなしでは、もう生きられない・第2話-5

「……パフォーマンスかぁ」  蒼真はまだ見ぬパートナーについて思い巡らせながらストレッチを始めた。  グラウンドに寝っ転がって青い夏の空を見上げると大きな入道雲が広がって気持ちがいい。  そんな些細なことすら気が付くことができていなかった。  しかし今日は半藤のおかげなのか心に余裕がある。 「今日の試合が終われば連休だなぁ」  芝生でストレッチをしているだけで普段と身体の状態が違っていることに気づく。  カチカチに固まっていた筋肉は適度にほぐれており、伸ばすと心地よい。  その気持ち良さはなんだか半藤が別れ際にしたキスに似ている。  触れるだけのキスは余韻がいつまでも残ってしまう。  すぐにでも欲しいと思わせるまじないのようだ。 「蒼真さぁーん、あとでブルペンへ入るとき声掛けてください! 今日はオレが球を受けますんで」  芝生に寝っ転がって身体をほぐしていた蒼真に向かって声を掛けてきたのはキャッチャーの叶野潤(かのうじゅん)だ。  このチームでSubなのは亮之の退団後は蒼真と叶野のふたりきりだった。 「おう、こっち戻ってきたんだな」 「はい、後半戦に向けて休みに入るんで、すこし二軍で調整してこいって言われました」 「潤がいると投げやすいからありがたいよ。今日の試合はマスク被るのか?」 「そうみたいです! たぶん蒼真さんも投げるんじゃないですか? 球受けろって言われたんで」 「了解、あとでブルペン行くとき呼ぶわ」  今日、やっぱり投げるのか。  蒼真はマウンドに上がれる嬉しさで口元が緩む。  身体は軽いし、いい球が投げられそうだ。  それにキャッチャーは非凡な野球センスで各球団がドラフト会議で争奪戦になった叶野潤だから余計に気分がいい。  関西出身の叶野は気品のあるすっきりした顔立ちだ。  背丈は蒼真と同じくらいの百七十センチ前半だが、高卒三年目を迎えた今シーズンはウエイトを増やしたようで下半身と二の腕の筋力が明らかに上がっていた。  キャッチャーマスクを被っていても外しても変わらない凛とした美しさは入団当時から大人気で、今日の二軍施設には女性ファンがふだんより多く集まっていた。 「潤もいつかパートナーを見つけて……いや、もういるかも?」  もしかしたら叶野にも心を許した相手がいるかもしれない、と胸がざわりと音を立てる。  パートナーの存在は見た目では分からないので、Domから贈られるCollar(カラー)という首輪に似たアイテムを身に付けることでDomに「所有」されていることを表現する。さすがに試合のときにカラーをつけてるSubは見たことはないが──。 「もしもパートナーからカラーを受け取ったら、着替えるときに外すのか、それとも家だけでつけるのか?」  叶野が淋しそうにカラーを外す妄想が頭のなかに浮かぶ。 その映像に重なるように蒼真が半藤からカラーを付けてもらうシーンが流れて「わぁっ!」と叫んでしまった。 「どうした、蒼真。虫でもいたか?」  近くを通ったコーチに驚かれて、「いや、まぁ、そんな感じです」とごまかす。 「なにを想像してるんだ、俺は……」  たかだか昨夜出会って数時間過ごしただけなのに、半藤のことを思い出すとキスが恋しい。   身体が軽くなったことと引き換えに心には半藤の存在がべっとりと刻まれてしまったようだ。  ノックを受けている野手メンバーの声出しで我に返った蒼真は「集中、集中!」とストレッチからアップへ移った。

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