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キミなしでは、もう生きられない・第2話-7

 室温は90℃を超えている。今日の香りはユーカリだ。  蒼真は三セット目のサウナ室で熱波師がやってくるを待っていた。今日の担当は半藤だろうか。もしそうだったらどんな表情をすればいいのか、そわそわとドアが開くのを待った。 「お待たせしました。夜の部のアウフグースを始めます。本日担当するのは──」  半藤ではなかった。期待が崩れ落ち、会えないかもしれない焦りが込み上げる。  今日は退勤してしまったのだろうか。いや昼間の部を担当のしたのかもしれない。  リラックスするためにサウナに来ているのに、「ととのう」どころか乱れた心が騒いで苦しい。  厚手のタオルで熱い風が送られると蒼真は体の異変が起きそうな気配に口元を押さえた。抑制剤を取りに行かないと危ない状態かもしれない。  なぜだ、とそっと立ち上がってサウナの外へ出る。半藤に会えなかったからなのか、それとも昨晩のプレイの効能はここまでなのか。シャワーを浴びてすぐに脱衣所へ上がった。 「大丈夫ですか?」  バスタオルで体を拭いたあと、そのまま脱衣所の椅子に腰かけて休んでいた蒼真は肩を叩かれた。項垂れていたので気分が悪くなった客だと思われたのかもしれない。たしかにそれは間違いないのだが。 「あ、はい。すこし休んでいただけなので」  ふっと顔を上げると目の前にいたのは「やっぱり会いに来てくれた」と得意げな顔をした半藤だった。 「えっ! あ、えっと……」ととつぜん現れた会いたかった人物に蒼真はうまく言葉がでない。 「試合が終わってから、わざわざボクに会いに来てくれたたんですか?」  大きな手のひらが蒼真の頭部に触れる。それだけなのに肩が震えてしまうくらいに反応してしまう。 「阿方さん、GoodBoy」  耳元に唇を寄せて囁く半藤から欲しかった言葉をかけられると「んんっ」と喘ぎにも似た声を漏らしてしまった。 「そんな声、ここで出さないで……。そうだ、ボクももうちょっとで仕事が終わるから、待てます?」  蒼真は頬を赤らめたまま頷く。短いコマンドなのに頭はふわふわと浮かれたように心地よい。 「阿方さん、車で来ました? そんな姿を他のDomに見られたくないんで、駐車場で待っていて欲しいんですけど……」 「そんな姿……って? 俺、変な顔してる?」 「うーん、変っていうか、可愛すぎるんで。ウチって他にもDomスタッフがたくさんいるから、阿方さんのこと知られたくないんですよね」  ギリっと歯を鳴らした半藤に睨まれる。その眼光に蒼真は鼓動が早くなった。 「う……うん、分かったよ。車で待ってる」 「とっても素直で早くご褒美あげたいですね。阿方さん、楽しみにしていてください」  半藤が囁き、その場を立ち去ると蒼真は脚に力が入らないほど、全身で快楽を得てしまっていた。 「ご褒美、ってなんだろう……」  そのワードにぞくぞくと内側から期待が高まるのを感じる。よろけながら立ち上がり、服を身に着けるとすぐに駐車場へ向かった。

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