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キミなしでは、もう生きられない・第2話-8

「お待たせしました、阿方さん」  一時間くらい待っただろうか。  蒼真の乗る国産スポーツカーの窓がコツコツと叩かれた。  店の制服から黒い無地のTシャツにカーキ色のワークパンツに着替えた半藤が車の横で微笑みながら立っている。  ルーズフィットでも脚の長さが際立ち、羨ましいと蒼真は小さく唸る。 「高級車だと予想していたので、すぐにどの車か分かりましたよ」  鍵を開けると同時に半藤はするりと助手席に乗り込んだ。 「限定生産車だからな。この車で二軍球場に行くのは気が引けるよ」  エンジンを掛けると地響きするようなマフラー音が地下駐車場に広がる。 「でも今日はしっかりいい投球ができたんじゃないですか? 試合結果、見ましたよ」  スマホの画面を蒼真に向ける半藤は満足そうに言った。 「ありがとう。半藤に助けてもらわなければ、今日みたいなピッチングが二度とできなかったと思う」 「ねぇ、阿方さん、これからもボクに任せてくれませんか?」  半藤は「行先を設定させてください」とカーナビをいじって目的地設定をする。  ゴール地点に追加された場所はこのサウナ施設からもわりと近い隅田川沿いのエリアだ。 「な、なにを?」 「いまさらなにって、どうして聞くんです? それは阿方さんのケアですよ。もしボクが担当じゃない日に倒れて、他のDomにケアされる姿を考えただけでゾッとします。ずっとずっと阿方さんにパートナーがいないことは承知なんですが、症状が出てしまった以上、適切なプレイをしないとほんとうに野球ができなくなりますから」  このナビ通りに車を走らせて、と半藤に言われて蒼真はアクセルを踏んで夜の騒がしい下町の繁華街を抜ける。 「……お、俺もそれを考えてた」  半藤に会えなかったときに抑制剤を飲まなくてはならない状況に陥りそうになったこと、簡単なプレイだけで今季最高のピッチングできたこと、それらはすべて半藤がいなければ気づけなかったことだ。 「わぁ、阿方さんも考えてくれたんですね。ボクのこと必要だって思ってくれるなんて……十年待った甲斐がありました」  信号で停まると半藤に唇を耳元へ寄せられた。 「どんなごほうびあげましょうか」と吐息交じりに囁かれる。 「ちょっ、んっ、やめて」 「阿方さん、車のなかだからいいけど、その声は外で出したらダメですからね」  半藤は意地悪な顔つきで耳たぶを引っ張って離す。  軽い痛みの刺激に蒼真は「ごほうび」と「おしおき」の存在価値を見出してしまう。

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