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キミなしでは、もう生きられない・第3話-10

「だからしばらくはまた抑制剤が必要ないかもしれませんね。ずっとずっと必要ないくらいにボクで阿方さんをいっぱいにしたい」  たくましい両腕で蒼真は抱き寄せられた。「もっと長くプレイできるようにボクも命令を考えておきますから」と額にキスを落とす。  もっと怖いことをされると思っていた。  プレイに興味がなかったわけではないのでネットの情報を読み漁ることも多かった。縛られたり、道具をむりやり挿入されたり。そういう情報を目にすると恐怖のほうが勝ってしまっていままでプレイをする勇気が出なかった。  しかし半藤はセーフワードを決めたけれど、蒼真がそれを使うようなことはしなかったということだ。  安堵が襲い、「ありがと、半藤」と口から自然と零れる。 「なにがです? 長くプレイしたいってことですか?」 「……もっと無理矢理されるって思ってたから。そ、その、後ろ、使ってないんだよね?」 「当たり前です。大切な阿方さんを壊すようなことしませんよ。まぁ抑制剤が効かなくなったら分からないですけど。阿方さんとの距離が遠いときのほうがたくさん薬飲んでました。プレイできる状況にあると思うと少し飲む頻度も減ったんです」 「……俺も、半藤がこの前、ケアしてくれたときから飲んでない」  半藤は「それは嬉しいです」と今度は唇にキスをした。 「ねぇ、阿方さん。明日は何します? もっとプレイがいいですか?」  キスの余韻でくらりととろけそうになる頭にセーブをかけて「そうだな……俺、半藤のこと、なにも知らないから……、ただプレイするだけじゃなくて、もっと……いっしょにいて、いろんなことを知りたいかも」と告げた。 「そうですよね」と半藤は眉をひそめて瞳に翳りを作る。「ボクは出会ってから十年、ずっと阿方さんのこと見てきましたけど、阿方さんはそうじゃない。亮之のライバルくらいにしか覚えてないんですもんね」 「……ごめん」 「いいんです。思い出して欲しいけれど、いまのボクのことを好きになって求めてくれたら──」  野球選手としてこの先もやっていくためにパートナーになれるなら。いや、そうではない。半藤が自分を求めてくれるなら尽くしたい、それが蒼真の奥底にある願いだ。そのために一歩を踏み出す決意をする──。 「……じゃあ明日はどこか外に行きたい」 「分かりました。阿方さん、それってデートって言うんですよ」 「えっ、で、デートって……。手を繋いだり、いちゃいちゃしながら歩くの……?」  半藤は「顔が赤いけど、何を想像してるんですか」とおかしそうに笑う。 「阿方さんって、もしかして女の子とデートしたことないんですか?」  その通りだった。ワンナイトはあったとしても、誰かと恋人関係を結んだことはない。野球で手一杯だということもあるし亮之がいてくれれば野球以外の時間も満たされた。だから異性の恋人なんて煩わしいと思うばかりだった。 「……悪いかよ」  そっぽを向いて答えると半藤は「こっち向いて」と言い、もう一度、口づけをする。 「ボクが阿方さんの初めてするデート相手なんて、言葉にならないです。すごく楽しみ。どこ行こうかな」 「ふだんあんまり出歩けないから、臨海副都心にできたショッピングモールに行ってみたい。最上階には温泉とサウナもあるらしいんだ」 「いいですね。ボクの車で行きます? 阿方さんの車だと目立ちそう」  ここは駐車場がないマンションだけど近くの月極に停めているから、と言う半藤の車で行くことになった。  これが恋人という雰囲気なのだろうか。蒼真は抱き締められて、キスを何度もしてくれる半藤に心地よさを覚えた。  早く朝が来て欲しいような、このまま甘やかされていたいような。  贅沢な悩みだと、まどろむ瞼は自然と下りて、ふたたび眠りに落ちた。

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