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キミなしでは、もう生きられない・第4話-6
「それじゃあ半藤が食べる時間ないだろ? 俺も焼くから」
自分で食べる分は自分で焼けばいいのに、お互いに肉を焼き合っては皿に取り分けた。こんなやりとりも付き合い始めたカップルみたいで蒼真は自分が満たされてゆくのを感じた。
「阿方さんは出会ったときから、こんな風に誰よりも優しかったですよね」
とつぜん半藤は真剣な顔つきで「誰も気にかけないような存在でも見落とすことなく、声掛けてくれて」と言った。
「ど、どうした? 何のことを言ってるんだ?」
「あのとき、いたのがボクじゃなくても優しくしたんですか?」
網の上で音を立てて肉へ炎がまとわりつく。ひっくり返そうとトングを持とうとするが半藤の縛るような目線に体は言うことをきかない。
「あのときっていつだよ……?」
「阿方さんが高校二年生の秋です。ボクは高校受験のために学校説明会で阿方さんが通う高校に来ていたんですよ」
「えっ? 半藤は俺たちの高校を受験してたの?」
「はい。もともとボクは阿方さんが所属していたシニアリーグの別チームにいたんです。だから阿方さんがどれだけすごいピッチャーで甲子園出場回数が多い名門校からスカウトされていたのも知ってました。あの地域のシニアでプレーしているピッチャーはみんな憧れだったんです。阿方さんと同じ高校に通って、いっしょに野球したいって思っている人間のひとりでした」
掴みたいトングに触れることができなかった蒼真の手に半藤が触れて握られた。指が絡むと体温を感じて、ぞくりと体に疼きが起きる。
「学校説明会のあと、野球部の練習を見ていいと許可をもらって校舎に併設されてる野球部のグラウンドに行ったんです。そこでちょうど阿方さんが投球練習していて……間近で見たピッチングに驚きました。高校生が投げる球ってこんなに速くて力強いものなのかって」
蒼真は「見られるは慣れっこだけど……改めて言われると照れる」と半藤から目線を外した。
「それに……ボク、投球だけじゃなくて、そのときに初めて第二性について意識しちゃったんですよね」
絡んだ指先に力が込められた。逃れられないような気持ちになって、手のひらが汗ばむ。
「投げているときはキリっと真剣な顔つきなのに、投げ終われば、ほんわか笑う阿方さんのこと、ずっと目で追ってました。その姿をボクが守りたいって急に思ったんです。同級生の女の子にさえ、そんなこと思ったことなかったのに。こっち向いてくれないかなってドキドキしながら見学してたら、急に阿方さんと目が合って……」
「あぁっ!」と蒼真は急に大声を上げた。
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