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キミのすべてを、受け止めたい・第1話-2
「あれ、蒼真さーん、グラウンド行かないんすか?」
すでに用具やドリンクなどの準備終えた叶野に後ろから声を掛けられ、思わず「びっくりしたぁ!」と蒼真は叫んでしまった。若手はいろいろと雑用も多いのだ。
「びっくりしたのはこっちですよ。ずっと鏡の前から離れないんで心配になって声かけたんですから」
「悪い……。なんかボーっとしてたわ」
「まいにち暑いっすからね。無理しないでください。あ、そういえば聞きました? 那須さんの加入が決定したこと」
「聞いた、聞いた」
そういえば前半戦の終わりごろからマスコミが騒いでいたが、先日球団スタッフを通じて全選手へ通達されたことを蒼真は思い出した。
別リーグで最多勝を三年連続成し遂げた大型ピッチャーの那須泰地 が同じチームへ金銭トレードでやってくるらしい。
チームとしてはやはりエースで勝ち頭だった亮之が抜けた穴が大きかったのだろう。代役が定まらないまま、前半戦を終えたことで幹部たちも動き出したのかもしれない。
「那須さんと同じチームでプレイできるなんて信じられないっすね!」
「まぁ、那須さんが在籍していたチームは若手ピッチャーが次々と台頭してきてるからな。後輩に先発の機会を譲るっていうことなんじゃないか? それにたしか肘の手術を受けた影響がすこしは関係してるのかもしれないし」
「それでもウチのチームの戦力としてはデカいっすよ! オレなんて子供のころから憧れの選手だったから」
那須はメジャーでも通用しそうな百九十センチ近い大柄な体格と剛速球のストレートが持ち味だ。年齢は三十だが、肘の手術後は思うような投球ができず、メジャーには挑戦せずに旧チームへの残留を選んだが、けっきょく金銭トレードという扱いとなった。
きっと那須自身も思うところはたくさんだろう。心機一転、新しいチームで奮起しようとしているかもしれない。
「俺にとっては学ぶところもあるだろうけど、ポジション的にはライバルになってしまうかもなぁ」
「どうなんすかね。那須さんを先発で使うのか、中継ぎで使うかにもよるでしょうけど……。あ、そうだ、蒼真さん。今夜予定あります? 練習が終わったらメシ行きません?」
蒼真は叶野に目を覗き込まれながら食事に誘われた。その瞳は子犬がしっぽを振ってごほうびを待っているように見えてしまう。
「行くか」
こういうときは半藤にちゃんと予定を伝えたほうがいいんだろうか、と胸がざわりと音を立てる。たかがチームメイトと練習後に食事へ行くことなんてしょっちゅうあることだ。
「よしっ! 蒼真さんの、いいひと、について教えてもらいますからね!」
「だ、だから、大きい声で、いいひと、とか言うなって!」
にやりと口角を上げて笑う叶野は「店はあそこでいいですか? いつもみんなで行く中華屋で」と言った。
「いいよ。しばらく行ってなかったから、あそこの炒飯食いたいわ」
叶野は親指を立てて「同感です!」と言いながらグラウンドへ出て行った。
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