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キミのすべてを、受け止めたい・第2話-5
『四回の表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー・那須に変わりまして、阿方。ピッチャー・阿方、背番号34』
三回表のマウンドを投げ終わった那須は予告どおり蒼真と交代した。
投球内容は奪った三振が四つ、打たれた安打は一本、四死球なしという、一軍で即戦力として投げられる出来だ。
球速も百五十キロ台をずっとキープしており、全盛期に近い状態に仕上がっていた。
四回表のマウンドに上がった蒼真も那須の好投に続いて、打者三人で抑え無失点。
得意のスライダーが随所に決まり、一軍へのキップが及第点なんて言わせないくらい圧倒した。
「さすが蒼真さん。どんどん調子良くなってますね、ナイピです!」
マスクを脱いだキャッチャーの叶野にほめられながらベンチへ戻るとすでに投げ終わった那須がハイタッチを求めてきた。
なにも考えずに触れた手のひらからDomの圧力を感じ、蒼真の身体の奥がどくんと脈を打つ。
「阿方が投げた最後の球、しびれたぞ」
「えっ、あ、ありがとうございます。これで今日の役目は果たせました」
キャップを脱いで流れる汗を拭う。
投球はうまくいったけど尋常ではない汗が噴き出して止まらない。
フェイスタオルはすぐにびっしょりと濡れ、蒼真は目を疑った。
たしかにナイターとはいえ、熱帯夜のような暑さだ。
それでも通常の汗とは違うような気がして、蒼真は冷蔵庫からドリンクを取り出して喉を潤した。
はやく、会いたい。
半藤に会って心も身体も満たされれば、この気持ち悪さはどこかへいくはずだから──。
その後も継投がはまり、チームは勝利した。
試合後のミーティングも早く終わったので蒼真は急いで帰る支度をする。
スマホを確認すると半藤は施設の近くまで到着したとメッセージが来ていた。
「阿方ぁ、明日から一軍のところ悪いけど、ちょっとだけメシいかねぇー?」
明日、二軍は試合がない。
試合も勝ったのでどうやら寮生以外の何名かで外食に行くようだった。
「悪い、準備もあるし……今日はパスで」
自宅マンションの近くに住む同期に誘われた蒼真は申し訳なさそうな表情を作って断る。
ふだんだったら間違いなく誘いに乗っていただろう。
「そうだよな、悪かった。また今度な!」
うまく断れたとひと息つくと、ぐらりと目の前が揺れて悪寒が全身を駆け巡る。
おかしい、Subの発作が出始めた。
早く支度して半藤のところへ行かなければ。きっと会えば良くなるはず──。
しかし身体は言うことを聞かずにロッカールームで蹲ってしまった。
「おい、大丈夫か」
立ち上がれず震えていた蒼真の後ろから声を掛けてきたのは那須だった。
ハイブランドのトートバックを片手に持っているということは帰る準備を終えて、たまたま通りかかったのかもしれない。
「あ、はい。ちょっと立ち眩みみたいなものです」
「……とは思えないけど?」
那須の大きな両手が蒼真の肩に触れ、「立てそうか? ここだと他のメンバーに見られて勘付かれるぞ」と身体を支えながら立たせてくれた。
どうやら那須には蒼真がSubだと気づかれてしまっているようだ。
「すみません……」
那須が触れた箇所が溶けるように熱く感じる。
Domの温もりを身体が敏感に察知した証拠だ。
はやく離れないと、と焦る気持ちとは裏腹に重心が揺れて那須に寄りかかるような恰好になってしまった。
「んっ……、も、もう行かないと」
「待てって。そんな身体じゃ外出れないぞ」
動き出す前に背後から那須に抱き締められた蒼真は「あぁっ」と喘ぎに近い声を零してしまった。
「いま誰もいなかったからよかったけど……そんな声出すなって」
半藤よりも強いDomの香りが漂う。
好意がなくてもSubの自分がしっかりと受け取って反応している証拠だ。
Domだからって誰でもいいわけではない。それなのにコマンドを出されていないのに、どうしても那須の腕から抜け出すことができなかった。
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