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キミのすべてを、受け止めたい・第3話-4
なんだか夜が長い。
光がまったく差し込まないなんて、ほんとうに朝が無くなったのかもしれない。
だったら、体を起こすことなんて意味がないだろう。ずっとこうして眠りについていれば、なにもかも終わらせることができるはず──。
「おい、蒼真っ! 大丈夫か!」
誰が自分の名前を呼んでいるのか分からない。それに大丈夫に決まってる。だって寝ているだけなのだから。
暗闇の中に響く誰かが呼ぶ声を蒼真は無視し続けた。まるで耳の周りと飛ぶ蠅のようだと言わんばかりに。
「ダメだ。反応がない。救急車呼ぶか……。たぶん抑制剤の副作用かもな」
救急車を呼ぶ、とはどういうことだろう。朝の来ない世界にやってきただけだというのに。大げさなことをいう人がいるもんだ、と蒼真はふっと笑おうと口を動かそうとした。しかし硬直してなかなか口角が上がらない。
「いや、片山さん。コマンドを使ったほうがいいかも。薬に頼った結果が、この状態なら、やはりDomの力が必要だと思います」
片山さん、ということは片山トレーナーが傍にいるのだろうか。どうして部屋に片山トレーナーがいるのだろう。
「でも那須は蒼真にコマンド出せないんだろ?」
那須──。彼も近くにいるということだろうか。しかしどうしてふたりが慌てているか分からない。
「この状態じゃ、だれがコマンド出したって気づかないと思いますよ。片山さんがケアするのがセオリーかと思いますが、ここまで重症だと、深いケアが必要かもしれません」
「そうか……Domのランクでは那須以上に自分はなれないからな。じゃあ頼むぞ」
「はい。任せてください」
遠くで聞こえていた那須の声がだんだんと耳元に近づくような気がした。
「阿方、やっとおれのものになれるぞ」
頭の上に手のひらが乗せられて、皮膚のセンサーが那須の体温を察知する。Domの香りが鼻先をかすめ、締め付けるように痛んでいた頭が緩んでいくのが分かった。
「……おれ、の、もの?」
那須の手のひらで、すぅっと頬を撫でられると蒼真は瞼が自然と開いた。
「気がついたか!」と片山トレーナーが慌てたように大声を上げた。
「すこし触れただけなのに、目を覚ましてくれる阿方は従順でとてもそそるよ。あぁ、はやくおれの言うことを聞かせたい」
「おい、ちょっと待て。那須、どういうことだ。ケアするだけだろ! 従わせたい欲があるならコマンドを使うべきではない。いまは蒼真の体を回復させることが先決なんだぞ。それに那須がディフェンス状態になっていたら意味ないだろ。よけいに蒼真が苦しむことになる!」
「だって、意識のないうちに阿方を躾けないと。あのパートナーがいないうちにやらなければ、阿方はおれのものにならないじゃないですか」
完全に瞼が上がった蒼真は怒りに満ちたような強い眼光で見下ろす那須と視線がぶつかった。
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