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キミのすべてを、受け止めたい・第3話-6
「阿方さんっ! どうしてそいつが阿方さんの部屋にいるんです!」
那須が電話を掛けたせいで、半藤が尋常じゃない慌て方で蒼真の部屋へやって来た。
蒼真のスマホからの着信だからか、ワンコールですぐに半藤が応答し、三十分くらいで到着しただろうか。
電話での半藤は『もしもし、阿方さん? 阿方さんですよね?』と蒼真からの連絡を待ちわびていたような焦り方だった。それに対し、電話を掛けた那須は『いや、阿方ではないよ。おれはこの前、キミにグレアを浴びせられたチームメイトだ』と煽ったことも関係しているかもしれない。
『阿方がサブドロップに入って、体調が芳しくないからケアするために、いま部屋に居る』
そう告げられた半藤は、すぐに行くから、手を出すな、と叫び、電話は一方的に切れたらしい。
「……半藤、俺、一軍に上がれなくなった」
寝室のドアを開けたままの格好で立っている半藤へ蚊の鳴くような声で蒼真は告げた。
「いまはそれが重要ではないですよ! 阿方さんの具合が良くないことにボクが気づけなかったから──」
蒼真のベッド脇に立つ那須を押しのけた半藤に頭を抱き寄せられる。
「ん……」
久しぶりに感じる半藤の香り。鼻孔を広げ、たくさん吸い込むとじんわりと体のすみずみまで安らぐような感覚があった。
「半藤の匂い、安心する」
重だるかった体が嘘のように緩み、ぎこちないけれど起き上がれるようになるまでになった。
「……すごいな。触れただけなのに、顔色が見違えるように良くなってる」
片山トレーナーが溜息をつきながら感心すると那須は「やっぱりおれは必要なかったってことか」とうなだれた。
「那須さん……そうじゃないです。俺のことを施設からマンションまで送ってくれたこと、ほんとうに感謝しています。それに那須さんを必要としている人は他にいますよ」
「……潤だって言いたいんだろ?」
蒼真が頷くと那須はやれやれと目を伏せた。
「阿方、人のことばかり気にしてないで、パートナーにちゃんと自分の気持ちを伝えないと。そのためには自分がどう感じているかを認識しないとな」
「じぶんの……きもち?」
那須に言われたことに、いまひとつピンと来ない蒼真は首を傾げた。
「まったく……阿方のパートナーはたいへんだなぁ。こんなにもSub特有の可愛げが抜群に備わっているのに、目を離したらどこか消えてしまいそうな危うさがDom心を揺さぶられるんだよ。おれだったら部屋に閉じ込めてしまいたいくらい、阿方を独占しないと気が狂いそうだ」
那須が腕を組んで溜息をつくと半藤は目元をキッと吊り上げた。
「……あなたの言ってること、すごく分かるんですけど、阿方さんを横取りするのはぜったいに許しませんから。いくらボクよりランクが上のDomだったとしても容赦はしません」
一瞬、半藤の体から闇のようなオーラが発したような気がした。
「だから、グレアを撒き散らすな!」と那須も対抗しようと漆黒のオーラを纏った。
「おい、それじゃあ那須も同じだぞ。ここでお前たちがグレア撒き散らしたら、蒼真どうなるか分かってるのかよ」
片山トレーナーに注意された半藤と那須は申し訳なさそうな表情を同時に作った。
「よし、蒼真のパートナーも来たことだし、那須、施設に戻るぞ。蒼真は体調が回復したら連絡してくれ。一軍には次のタイミングになってしまうかもしれないけれど、まずはベストなコンディションを保つことが最優先だから」
「はい……ご迷惑をおかけします」
「阿方、いつだって辛くなったら、おれがパートナーになってやるからな!」
捨て台詞なのか負け惜しみになのかは分からないが那須と片山トレーナーが蒼真の部屋を去ると半藤とようやくふたりきりになった。
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