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第6話

「嫌われた、かな‥」 俺は力なく椅子に座った。ユラールにとってあの夜の事は特別だったのかもしれない。あの夜があったから俺と付き合いたい、と思ってくれたのかもしれない。 なのに俺は全くその事を覚えていない。 それでも付き合いは続けたい、という俺は、ユラールには不誠実に映ったのだろうか。 はああ、と長いため息が出た。 そしてパン!と両手で頬をぶっ叩いた。 「仕方ねえ!すんだことを言っても始まらない」 とにかく俺はユラールを諦めない。時間をくれ、ということはユラールはしばらく俺とは会わないつもりなんだな。 そんなことにはさせない。 俺は一度好きだと思ったらしつこい男だ。そして今俺はユラールの事が大好きだ。あいつの手を離すことはしたくない。 ただ、あいつのキャリアとしては赤騎士団に入るのがいいに決まってる。だからそこは引き止めない。適材適所だ。 だが、ユラールを抱くことも諦めない。 そう決めて立ち上がった。 「どうしてここに来るんですか」 「ユルに会いたかったから」 平然とそう嘯く俺を、ユラールは嫌そうな、困ったような、何とも言えない顔をして眺めている。 俺は晩飯の買い出しをしてユラールの家に押しかけてきていた。 「入れてくれよ、ユル」 「‥俺は少し時間をくださいと言ったはずなんですが」 「やるとは言ってねえ」 そう平然と言って胸を張った俺の事を一瞬ユラールはぎろりと睨んだが、その後、はああと深いため息を一つついてからゆっくりとドアを大きく開けて部屋の中に入れてくれた。 そのまま後ろ手にドアを閉めるとすぐに俺は自分の身体で壁側にユラールを押し付け、荷物を持っていない方の手でユラールの頭を押さえつけて柔らかい唇を貪った。 「ふ!‥う、んんっ、う」 無理矢理に舌をねじ込んで咥内を舐め回してやる。抗うようにユラールは何度か俺の胸をどんどん叩いたが、俺がじゅうっと舌を吸い上げてやるとその手は力なく俺の胸の上に落ちてきた。 気のすむまでユラールの唇と舌を蹂躙して離してやったころには、顔を赤くして息を弾ませていた。 きっと俺を睨みながら文句を言う。 「‥なんで、そんなに勝手なんですか!」 「ごめんな、俺ってこういうやつなんだよ」 はあ、とまたため息をつくとユラールは部屋の中に入っていった。これ幸いとばかりに俺もその後ろに続く。中のテーブルに買ってきたものをどさりとおいてユラールに話しかけた。 「メシ、買ってきたから一緒に食おうぜ。まだだろ?」 「‥ありがとう、ございます‥」 ユラールはこちらを見ずに礼を言った。台所の流しに向かって立ったまま、身動きをしない。その後ろに近づいて抱き込んだ。びく、とユラールは身体を震わせる。そして泣きそうな声で呟いた。 「‥どうしてそんなことをするんですか‥?」 「ん?してえから」 「‥‥あなたって人は‥」 ユラールが息をつめたのがわかった。ああ、こいつ泣きそうだな。 そう思ったから俺はもっと強くユラールを抱きしめた。 「俺はさ、ユラールが好きだよ。まあ、恋愛的に好きになったのは、その、抱いてからだけど‥前からいいやつだなっては思ってた。だからお前の出世を邪魔する気はねえし、むしろ出世してほしいと思ってるけど、お前とは会いたいんだ。‥ダメか?」 「‥‥‥なんで、そんな‥」 ユラールは、ぐす、と涙を啜り上げるような音を立てた。‥泣かせてしまった‥。やっぱりちょっと俺が勝手だったかな‥。 「ずる、い、シュレン」 ユラールはそう言ってくるりと身体をおれの方に向けて俺の胸にしがみついてきた。 「ずるいですよ、そんなふうに言われたら、俺は、俺は何も言えないし‥騎士団に、行くしかなくなるじゃないですか‥」 ひくっとしゃくりあげて、ユラールは言葉を続ける。 「あなたと、一緒に働きたいから、警邏隊に入ったのに‥」 「マジか‥」 俺は少しだけ俺より背が高くてたくましいユラールの身体をぎゅっと抱きしめた。ユラールは一瞬身体を強ばらせたが、俺の腕が緩まないことを悟るとそのまま小さく身体を震わせて俺の腕の中にいた。 「俺が十四歳の時、警邏隊に入って間もないあなたが暴漢から助けてくれたんです」 ぽつぽつと話し出すユラール。マジか、全然覚えてねえな‥。 「突然のことに言葉も出なくて、身体も動かなかった。貴族として日々鍛錬してたのに、何の役にも立たなくて‥震えて泣きそうな俺にあなたは笑ったんだ」 「わ、笑った?」 話の終着点がわからずあたあたしている俺を見て、ユラールはふっと微笑んだ。 「ガキがビビるのは当然だ、大人になってから練習すりゃいいんだ、俺だって最初の頃はションベンチビってたぞ、って‥」 「‥まあなんだ、俺って昔から下品だったってことか‥」 天を仰いだ俺を見ながら、ユラールはふふっとまた笑って首を振った。 「いえ、‥失敗を責められなかったのは、あの時が初めてでした。その時、こんな人と一緒に働きたいって思ったんです」 そう言ってユラールはそっとその頭を俺にすり寄せてきた。俺をその頭を抱えてやりながら言った。 「‥でもさ、行けよ、騎士団。お前の将来のためにはそれがいいんだ。貴族なんだしさ。そんで休みの時や早番の時には俺と会ってくれ。職場が離れてもお前には会いたいからさ」 「‥‥シュレン、貴族の俺でも‥いいんですか?」 「俺は貴族にはなれねえし‥平民だからユルとは結婚できねえけど、ユルのことは好きだから、な」 震えていたユラールが振り向いて、がばっと俺を抱きしめた。ほとんど背丈の変わらない男同士が抱き合うという些かむさい絵面になったが、ユラールが抱きついてきてくれたことが嬉しくて俺もぎゅっと抱きしめ返した。そしてぐいっとユラールの顔を自分の方に向けさせてその唇を貪った。 「ふ、ぅぅ、んんっ」 少し苦しそうにユラールが喘いだ。その声に俺はすぐに劣情が掻き立てられる。きつく舌を吸い上げて上顎をぞろりと舐めあげた。ユラールの身体ががくがくと震え、力をなくしたのがわかる。 可愛い。あんなに強い男が、俺の腕の中だけではこんなに無防備で可愛い顔を見せてくるということに俺は激しく興奮した。 そのまま無理矢理ユラールを抱き上げて寝室に連れて行く。筋肉質な身体はなかなか重量があるが、俺もそこは男だ、気合で抱き上げ運んだ。 ユラールをベッドに横たえて、俺はゆっくり服を脱いだ。別に艶めかしい気持ちではなく、自分の興奮しまくっている息子殿を少し落ち着けようという気持ちからだったが、ユラールは欲望の熱を込めた瞳で俺の身体を見つめていた。 ‥かわいいな!俺の身体見て欲情したのか? 俺は殊更にゆっくりと自分の衣服を脱いでいく。 「ユル、エロい目で見てるか?」 わざとそう言ってやると、ユラールは顔を真っ赤にして枕の中に埋めた。耳まで赤い。 枕の中からくぐもった声が洩れてくる。 「‥シュレンって、意地悪ですね」 「だってそういう目をしてただろ?」 俺がなおもそう言ってやると、ユラールが少しだけ枕からまだ真っ赤なままの顔をあげて片眼で俺を見た。 「‥‥はい。欲情、しました‥」 あーーーーーーーーーーーー。 もう無理。無理だって。俺の息子殿が全然落ち着かねえ。 犯す。俺の体力の限りぶち犯す。 ぐいっと乱暴にユラールの身体を仰向けにし、また唇を合わせた。何度かちゅ、ちゅと挟むようにしてその柔らかい感触を味わってから舌を挿し込んで咥内を余すところなく舐めまわした。

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