5 / 11
第5話 漫画
漫画家になろうと思っていた。
小学校の4年生の時、天啓のように「漫画家になる」と心に誓ったのだ。今ならわかる。俺に才能は無い。
高校生になって少しは物事を考えるようになった。客観的にみて俺に才能は無い。
ベッドに寝転んで部屋の中を見回す。美大を受験する妄想もあった。
中学の頃、電車を乗り継いで画塾に通った。
部屋にはニオべの石膏像。
デッサンするには難しいのを選んだ。悲しげな顔に心を掴まれたから。
「俺の人生は挫折の繰り返しだな。」
そんな俺の心の琴線に触れた男。
「かすみ、おまえは完璧だ。
ミケランジェロの塑像より美しい。」
本人の前では絶対に言えない。部屋に引きこもって妄想する。ここだけが俺のプライベート。
掃除をしないから酷い部屋だ。
本棚に入りきらない本が無理やり突っ込んである。この頃、気に入ってよく見るのは古本屋で見つけた「ち組」というムック本。
ホモエロス特集号だ。40年以上昔の本だからエロさが柔らかい。
その時代の空気が感じられる。
俺は何を描きたいのか。そうだエロ漫画だ。
まだ、よくわかっていない。何せ、俺はチェリーボーイなのだ。下半身の疼きとは長い付き合いだ。興味あるのは、ただのセックスじゃない。
その人が何を考え、何を愛して来たのか?
その人の構成要素全ての、その過程に興味があるんだ。
グチャグチャな机の上を見る。
この混沌が「俺」だと思える。この机ごと、まるごと全部、認めて愛してくれる恋人が欲しい。
俺の全てを肯定してくれる人。
いつか出会えるだろうか?
高校生になって、その日のうちに出会った気がする。まだ何もわからないのに。
極めつけはその身体。偶然見ることが出来た佳純の裸。それを見るために休まず部活に出る。
「はあ、はあ、もうダメだ!
グランド広すぎる。10周はキツい。」
「佳央、まだまだ、あと4周,残ってんぞ!」
この後、部室で、着替える佳純を見られる事だけで走り抜いた。
人間の力ってのは案外そんなキッカケて昂進するのかもしれない。
水飲み場でシャツを脱いだ佳純が身体を拭いている。傍らで甲斐甲斐しくタオルを差し出す誠がいた。また、キスしているところが見たい。
屈折している俺。
ともだちにシェアしよう!

