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第5話 漫画

 漫画家になろうと思っていた。 小学校の4年生の時、天啓のように「漫画家になる」と心に誓ったのだ。今ならわかる。俺に才能は無い。  高校生になって少しは物事を考えるようになった。客観的にみて俺に才能は無い。  ベッドに寝転んで部屋の中を見回す。美大を受験する妄想もあった。  中学の頃、電車を乗り継いで画塾に通った。 部屋にはニオべの石膏像。  デッサンするには難しいのを選んだ。悲しげな顔に心を掴まれたから。 「俺の人生は挫折の繰り返しだな。」  そんな俺の心の琴線に触れた男。 「かすみ、おまえは完璧だ。  ミケランジェロの塑像より美しい。」  本人の前では絶対に言えない。部屋に引きこもって妄想する。ここだけが俺のプライベート。  掃除をしないから酷い部屋だ。 本棚に入りきらない本が無理やり突っ込んである。この頃、気に入ってよく見るのは古本屋で見つけた「ち組」というムック本。  ホモエロス特集号だ。40年以上昔の本だからエロさが柔らかい。  その時代の空気が感じられる。 俺は何を描きたいのか。そうだエロ漫画だ。  まだ、よくわかっていない。何せ、俺はチェリーボーイなのだ。下半身の疼きとは長い付き合いだ。興味あるのは、ただのセックスじゃない。  その人が何を考え、何を愛して来たのか? その人の構成要素全ての、その過程に興味があるんだ。  グチャグチャな机の上を見る。 この混沌が「俺」だと思える。この机ごと、まるごと全部、認めて愛してくれる恋人が欲しい。  俺の全てを肯定してくれる人。 いつか出会えるだろうか?  高校生になって、その日のうちに出会った気がする。まだ何もわからないのに。  極めつけはその身体。偶然見ることが出来た佳純の裸。それを見るために休まず部活に出る。 「はあ、はあ、もうダメだ! グランド広すぎる。10周はキツい。」 「佳央、まだまだ、あと4周,残ってんぞ!」  この後、部室で、着替える佳純を見られる事だけで走り抜いた。  人間の力ってのは案外そんなキッカケて昂進するのかもしれない。  水飲み場でシャツを脱いだ佳純が身体を拭いている。傍らで甲斐甲斐しくタオルを差し出す誠がいた。また、キスしているところが見たい。  屈折している俺。

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