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第7話 谷田玲子

「えんどうよしお!」  フルネームを呼ばれて振り向いた。中学の時の漫研の谷田玲子(やだれいこ)がいた。 「卒業以来じゃん。元気ー?漫画描いてる?」  谷田玲子は文芸部だった。漫画研究会と文芸部は、一緒にされて部室も同じだった。  玲子は小説や詩を書いていた。 「ああ、この頃、描きたくなる奴が見つかったんだ。主にデッサンだけど。漫画はないかなぁ。」 「描きたくなるようなモデルがいるの?」 「ああ、高校の同級生。 すごい筋肉で描きたくなる。」 「そう言えば遠藤の高校に、有名なやつがいるよ。噂がすごい。モテ君で、悪食(あくじき)。 何でも食っちゃうって。」 「なにそれ?」 「超イケメンで、ヤリチンだって。」 「へえ、そんな噂があるんだ?」 「一年でサッカー部だって。」 「えっ?俺もサッカー部に入ったんだよ。」 「じゃあ知ってる?上田佳純。」 「かすみ?そんな有名なの?」 「へええ?もう呼び捨て? 描きたい奴ってそいつ?」  玲子に鋭く聞かれて焦る。佳純はそんな奴だったのか? 「会ってみたいなぁ。」 「放課後、たいていグランドにいるよ。 見にくれば。」 「行く行く。女子の友達連れてくよ。 遠藤、彼女いないんだろ?」 「いや、いい。間に合ってるよ。」  押しの強い女子は苦手だ。  家に帰って今日のことを思い出した。 「有名だって?佳純。ヤリチンだって? 相手は女なんだよな。女とやるのか?」 (俺を抱いて欲しい。) と一瞬思って、慌てて思考を止めた。  あーあ、紙に鉛筆を走らせる。 6Bの鉛筆がケント紙に佳純を登場させる。 「わっ、似てねえ! 不細工だ。本物はもっと素敵だ。」  白っぽく染めたソフトドレッドみたいな髪。 スタイルはウルフカットか。  前髪をかき上げる仕草がいい。全部カッコいい。ゆるくかかったウェーブが揺れる。  耳の後ろに邪魔そうに流す手がゴツゴツして綺麗だ。身体中全部綺麗なんだ、たぶん。

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