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第57話 母親
キシはカッコいい仕立てのシャツを着てスリーピーススーツを着た。ベストが刺青を隠す。
スーツが似合う元ホスト。素敵だ。大人の男。
さっきまで強引に佳純をイカせた野獣が,スマートな大人の顔になる。
「送って行こう。車を出すか?
歩けないだろう。」
手を取って立ち上がらせてくれた。腰に力が入らない。抱き寄せられてなんとか歩く。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか。」
家に帰って来た。佳純には母親がいない。
身体が弱くて佳純が小さい頃亡くなった、と聞いている。
佳純が物心ついたときには、もういなかったから、そういうものだと思ってきた。
家の中の事は部屋住みの若いもんがやってくれる。不自由はなかったが,おふくろってものに憧れた。だから佳央のおふくろさんに懐いている。
甘えたくなる。理想の母親像だった。
料理がうまくて働き者。
「こんちはーお邪魔します。」
佳央の家に来た。
「あら,上田くん、雰囲気変わったわね。」
小さいお菓子をおみやげに渡すと
「いつもおしゃれなおみやげ、ありがと。
センスいいわ。上田くん,恋してるでしょ。」
佳純は赤くなって
「え、わかります?
実は恋人が出来たんだ。
前から俺の片思いだった人。」
「結ばれたの?」
「そんな直球で聞かないでください。」
「わあ、おめでとう。お祝いしなくちゃ。」
夕食を食べていけ、と言われた。筑前煮をリクエストした。
「張り切って作るわ。」
「すみません。」
佳央の母は嬉しそうにキッチンへ行った。
「全く、おふくろは何であんなにめざといんだ?
俺より先に気付くなんて。」
佳純がキシと結ばれた事,いち早く気付いたおふくろ、恐るべし。
「それでどうだった?
佳純の片思いじゃなかったんだな。
キシって人も佳純が好きだったって?
羨ましいな。誠が泣くぞ。」
「そうなんだよ。マコに言えない。」
「贅沢な悩みだな。」
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