61 / 65

第61話 本気の喧嘩

 キシは,上着を脱いだだけだった。もちろん飛び道具など持ってはいない。 「辰夫って言ったか?  かかって来いよ。 動画じゃ一方的にやってたな。」  落ち着いたキシに掴みかかってきた。ガラ空きの腹に蹴りを打っ込む。 「ぐう、う。」  うずくまった辰夫の隙だらけの顎を蹴り上げる。 「グフッ。」  のけぞって倒れ込んだ。 「はい,はい、終わりだ。 勝負にならねえな。」  若頭の黒川が間に入って止めた。場が緩んだ隙に辰夫が反撃する。  突き出した拳をすごい力で掴まれ、拳事吹っ飛んだ。 「レフェリーストップがかかってるんだよ。 止めろっていったら、止めろ!ダセーな。」  キシは片手だけで拳を掴んで投げ飛ばした。 辰夫は畳に叩きつけられた。また、ふいをついてキシに飛びかかって来た。  今度はキシが正攻法で正拳突きを出した。食らってまた、うずくまる。  動画で弱そうな同級生相手にこいつも正拳突きを入れていた。謝る相手に卑怯な奴だ。 「うわぁーー!」  またもや隙をついて頭から突っ込んで来た。キシに本当の隙などあろうはずが無い。  上田組一番の武闘派を名乗るキシだ。 素手で敵陣を突破出来る。素手で人を殴り殺せるはずだ。  またもや突っ込んで来た。もうフラフラだ。 「クリンチしてんじゃねえよ。離れろ!  抱きついて休んでんじゃねえ!」 「恥ずかしい奴だな。もう終わりか? このまま、タコ殴りしてやろうか? おまえがやってたみたいに、な。」  あの時、ごめんなさいと逃げ回る同級生を殴り続けていたのは辰夫自身だ。 「また、続けるか?」  父親が割って入った。 「すまん、もう許してやってくれ。 可愛い息子なんだ。」 「こいつが殴ってた子も誰かの可愛い息子だよ。 教室では 守ってくれるパパはいねえんだよ。」  黒川が吐き捨てるように言った。 「恥ずかしい奴だな。」  見ていた組の若いもんがみんなで呆れていた。 「まったくはずかしいやつだな。」  キムがしっかり動画に撮った。

ともだちにシェアしよう!