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第72話 汚い
巧妙に抉ってくる。
「キーパーチャージ!」
申告の声が大きい。主審は見えない所を線審に任せっきりだ。旗が上がればファールを取る。
線審の一人がS工業高校のOBだった。
主審の川上さんは、昔、この県の二部リーグで活躍していて、杉山監督と同期だった。
走りきれない。もうお年だ。後輩に丸投げなのだった。
0対0の後半、佳純たちは戦略を変えた。ボールをボランチの石井に集めてパスを出す。
佳央と佐藤がゴール前を固めて、開いたオフェンスの真ん中を佳純が突破する。
パス回しを止めてドリブルシュート。普通センターバックはここまで上がって来ないから、佳純のマークは緩かった。ウイングの林田と加藤の詰めが早い。相手を翻弄する。
今関が突っ込んできた。佳純が受けて立つ。思い切り蹴ろうとする時の一瞬の間に蹴り返した。
二人とも転倒。先に脚を出したのは今関だったが、自分の脛にヒットした。
「ピ、ピィーッ!」
旗が上がってレッドカードが出された。
「退場!」
今関の退場で10人で試合をする。
交代選手も出尽くした。相手チームも味方チームも、負傷してボロボロだった。
表立って大きなケガはしていないように見えるが、スパイクで抉るようなキックの嵐。サッカーは格闘技だ。こっちの負傷が重い。
汚いやり方に慣れているはずのS工業も疲労困憊のようだった。
「ピィーッ!」
試合終了。佳純の入れた一点を死守して1対0で辛うじて勝った。
「シードされるS工業に勝ったんだよ。
やったな!」
S工業の奴らは整列もしないで握手も無し。片付けもしないで帰って行った。立派なバスに乗って。彼らにはマナーという言葉はないのだろう。
「よくがんばったな。」
みんな川上さんにお礼の挨拶をした。川上さんは
「こんなに走れなくなるなんて。不覚だった。
線審にも一人アンフェアな奴を連れて来てしまった。 あれでも全日本を目指しているんだよ。
申し訳なかった。いいチームだな。
サッカーの層が厚くなったって事だ。
これからも頑張ってくれ。」
杉山監督が
「酷い試合だった。
みんな、けがを治してこれからも頑張ってくれ。」
見ていたキシたちも思うところがあるようだった。
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