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第76話 新聞記事
新聞に出たのでみんな知る所となった。
S工業も佳純たちの学校も,その話題で持ちきりだ。佳央は試合で削られた脛が痛む。骨折しなかったのは幸いだった。
誠は未だにギブスが取れなくて車椅子だ。
「今関ってサイコパスかな?」
「病名付けるとそれが免罪符になってしまう。奴のやった事は悪質だ。精神を壊すようなやり方だ。被害に遭った子が立ち直れる日は来るのか?」
体の傷は治っても心の傷は残るだろう。何の落ち度もない生徒が些細なきっかけで標的にされる。
「見て見ぬふりがヤバい。無関心がダメだ。
なんかちょっときっかけがあればそこに付け込んでくる奴がいる。」
「自分がいじめの標的にされてるのを認めたくないんだよ。負けたような気がするから。
標的にしてくるやつが全部悪いんだけど。
少しのプライドがつけ込まれるんだ。」
「俺、見つけたら、そいつをぶん殴るよ。」
「どいつ?」
「もちろん、いじめをやる奴を、だ。
俺を呼んでくれ!助けに行くからさ。
俺がやられたらおまえが助けろよ。」
「ああ、わかったよ。」
仲間がいる奴は標的になりにくい。それで徒党を組むとまた、その狭いコミュニティでイジメが始まる。
「あんな事する奴が一定数いるのか?
人間嫌いになりそうだ。」
「生きてればきっといい事もあるよ。」
「根拠無え、慰めだ。」
「せめて俺は加害者にならないように気をつけるよ。」
佳央はサッカーに生き甲斐みたいなものを見出したのに、嫌な気持ちになった。
(今制作している大作にかけよう。
等身大の佳純。)
佳純は、キシに癒してもらう。甘えてキシの所に行く。
「佳純、脚の痣が消えないなぁ。」
優しく撫でてくれる。
「もう痛く無いよ。
キシたちはあいつらを警察に突き出したんだってね。俺、心配したんだ。」
首に抱きついて顔を見る。見つめあってくちづけする。
「危ない事はやめて欲しい。
極道だから奴らは情け容赦なく攻撃してくる。
変なコネを使って嫌な事をしてくるんだ。
キシに何かあったら俺絶対許さないから。」
「大丈夫だよ、俺強いから。」
どこかで聞いたセリフ。抱き寄せられてキシの匂いを嗅ぐ。
「だいすき、キシの匂い。」
「ああ、少しムスクをつけてる。」
「ムスクって催淫効果があるんでしょ。
前からつけてる?」
「ああ、好きなんだ。」
「やだ!
この香りを知ってる人がいるんだよね。
キシの香りだって思い出す人がいるのが嫌だ。
俺だけのためにつけて。」
(口うるさい女みたいな事言ってる。
自分が嫌になる。)
この指が誰かを愛したんだ、と思うと切ない。
「キシは人を好きになって、好きになりすぎてツラい、なんて思った事ないでしょ。」
(佳純の事をずっと思ってたよ。つらかった。
そんな事、男は言わないものだろう?)
抱き寄せて、抱きしめて、愛して一つに繋がって離したくない、といつも思っている。
「大好きだよ。佳純だけ。」
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