148 / 149
第148話 日常
緩い日常が戻って来た。
佳央はまた、漫画を描き始めた。
「俺の妄想を形にして吐き出したいんだ。」
佳純に対する思いは、何となく続いている。初めの頃の切なさは緩和されて甘い絶望に変わって来た。遠くから見ているだけでいい。
それなのにフラッと佳央の家にやって来ては、ベッドに潜り込んで眠ってしまう。
佳純の眠ったベッドには少しムスクの残り香がある。
「キシが付けてる香水の匂いだ。」
(俺には佳純の匂いだと記憶に刻まれてしまった。)
「彼氏と仲良くやってるんだね。」
「まあね。」
少し頬を染めてそんな返事をする。
「ねえ、馨の事、どう思う?」
「なんかあんまり聞いちゃいけない感じだ。
香典も何も出さなかったしな。」
「触れてくれるな、って感じだったよ。」
花田美鈴の最後を知るのは警察関係者だけだった。佳純たちが知る由もない。
あの花田美鈴がサッカー部の花田馨の母親だとわかる人間はいない。
高校生とも思えない幼稚でくだらない、しかも暴力性は非常に強い、イジメ動画に世論から厳罰を望む声が多くなった。
あの娘たちはもう充分罰を受けた。ノアという娘は左手の手首から先を失った。あとの二人、美知といずみは指を4本失った。日常生活に支障をきたしている。
イジメられている奴に向かって囃し立てて煽った罪は深い。
だが、助けもせず、一緒に煽って見ていただけのガキどもは、大した報いを受けていない。
不公平というものだ。厳罰を与えたい、と誰もが思った。
そんな奴らは、悪質なヤクザのM会に目をつけられてしまった。
「ヤクザは半端ねえよ。これから使い倒してやるよ。面は割れてっから。」
助けもせず止めもせず、おもしろがってイジメ暴行を見ていた奴らはM会に特定されている。
一人は父親が銀行員だったから、その動画が届けられ銀行のロビーで上映された。名前入りのどアップで。
他の一人は内定していたFランクの大学の正面玄関ホールで動画が上映された。
他の一人は,郵便局の就職が取り消された。
そうやって写真や動画が暴露され、デジタルタトゥーになって拡散されている。
ともだちにシェアしよう!

