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第150話 佳純
佳純は軽音に顔を出したり、サッカー部の練習に参加したりある意味日常が戻って来た。
以前佳純は、稼業がヤクザだ、と言う家に生まれてずいぶん反抗した事もある。中学の時、キシたちが組員になり家の隣の事務所で見かけるようになった。
広い肩、がっしりした背の高い男。少し長い髪が風に靡く。何かミュージシャンみたいな雰囲気のあるかっこいい人。端正な甘い横顔。見惚れる。
(こんな素敵な人がいるんだなぁ。ヤクザなのか?もったいないな。極道か。)
佳純はキシが気になって仕方ない。用もないのに事務所をうろつく。
「若、ヤクザの事務所にはあまり近づかない方がいいですよ。」
カシラにたしなめられても憧れが募る。
ある夏の日、ヤマとキムとキシが組の車を洗っていてシャツを脱いだのを見た。
3人とも背中に見事な彫り物を背負っていた。
極道ならよくある光景だ。
佳純はとりわけ、キシの唐獅子牡丹に目が釘付けになった。
「すごく綺麗だ。」
刺青なんて他の組員も背負っている。彫り物は,今更珍しくもないのだが、キシのものは衝撃だった。
『なんて綺麗なんだ。ライオン?ああ獅子か。)
それ以来佳純の頭の中には、自分も何か入れたい、ライオンだ、という思いでいっぱいになった。
(いかにも極道みたいな和彫じゃ無くて、なんか外国人が入れるような。)
イキがってケンカに使おうとは思わないから、高校生になってから脇腹に入れた。普通にしていたら見えないような所。
佳央が見たのは、彫ったばかりの頃だ。知ってたら、きっと留めただろう。佳央の悲しい顔が目に浮かぶ。
和彫でなくちょっと洋風のトライバル柄にレゲェのライオンを入れたのはキシの唐獅子にあやかったものだった。
「やっぱり、俺、価値観がヤクザなんだ。」
佳央の部屋でタトゥーの話になった。
「なんでヤクザは刺青を入れるか、知ってるか?」
佳純の問いに、佳央は知らないと答えた。
「死んだ時に身元がわかるように、だよ。
珍しいのを入れた方がいいんだって。
キシが言ってた。」
ヤクザはいつどこで野垂れ死にするかわからないから、だって。悲しすぎる。
「佳純、おまえはヤクザじゃないだろ。
死に急ぐなよ。キシさんにも言ってくれ。」
佳央はなんだか悲しくなって佳純の手を握った。
「バカだなぁ、映画の見過ぎだよ。」
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