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第154話 昔語り
いつものようにキシの部屋に泊まる。軽くワインを飲んでキシの肩に寄りかかっている。
撃たれた事件の事。キシと話している。
事件の背景を考えてみた。
「俺は逆恨みだと思うよ。」
「ああ、もちろんだよ。佳純には、何の非も無い。M会に空気入れてる奴がいるな。」
なぜか全部佳純のせいにされている。全く見当違いだ。初めはチンケなイジメ問題か,と思ったが、内容が悪質だった。
猪飼辰夫が乱暴者で、弱いものイジメをしている、と思われていた。ガキのケンカに騒ぎ立てるのもおとなげない、と多数が傍観していた。
「辰夫に聞いてみたんだ。
前から佳純の事、知ってる奴がいてハメようって言ってたらしい。」
サッカーで今関のチームに勝った事とか、フェスで派手な目立ち方をしてた事を気に入らない連中がいた。
裏で糸引いてるのはM会の高橋だ。一度は義理でも父親だった高橋にキシは複雑な思いだった。
それからM会の幹部中山の息子。そいつらとつるんでいる半グレのガキたち。女たちも。
指を潰された事を恨んでいる。
今関と組んで悪い事ばかりやっていた輩。
中山の息子は自分の女が被害を受けた事を恨んでいる。中山の息子と池上いずみとの間には赤ん坊がいるのだ。子供の面倒を見るのも支障がある。指の欠損はつらいものだった。
三人娘は自業自得なのに、全部佳純のせいにして、それが組同士の抗争に発展しかねない。
上田組のシマを侵略したいM会の狙いがあった。上田組は古くから地元で友好的に生きてきた任侠の組織。難癖つけたい意図が見て取れる。
キシの肩に抱かれて
「もう、考えても仕方ないよ。
仕返しするなら、返り討ちにしてやる。」
「そうだね。それよりキシの青春が知りたい。」
「青春って言われると気恥ずかしいな。」
佳純が知りたいのはキシがホストにスカウトされた頃の事。
「一人暮らしだったんでしょ?」
「ああ、母親が夜職で男出入りが多かった。
麗華は恋多き女なんだよ。」
「麗華さん綺麗だもんね。」
「俺は気を利かせて高校で家を出て一人暮らししてたんだ。」
新宿の軽量鉄骨の3階建てのアパート。
「毎晩遊んでたよ。クラブとかで踊ってた。」
背の高い男らしい精悍なキシはきっとモテただろう。
「彼女がいた?」
「いや、特定の女はいなかった。面倒だと思ってた。俺は女が苦手だから。」
踊りあかして酔いも醒めてたどり着く一人の部屋。
「寂しかった?」
「男は寂しいなんて言わないんだよ。」
ギュッと抱きしめた。
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