11 / 40

第4章 寄せ合う安寧 -3-

 レンの体が、腕の中でふっと沈むように力を失う。 「レン?」  名前を呼ぶと、睫毛が微かに震えた。意識があることに安堵しつつ、腕の中のレンの体を冷やさないように、慎重に、だが素早く動く。  脱衣所に着くと、リュイは片手でタオルを引き寄せ、レンの体にそっとかけた。肌についた水滴を抑えるように拭い、その上から柔らかいローブで包み込む。  そのまま自分は腰布を乱雑に巻いただけの姿で脱衣所を出ると、廊下に控えていたレリオが二人を見てぎょっと身を竦ませた。  雑務を終えたら侍従館で待機するよう命じていたはずだが――理由はどうあれ、今は都合が良い。 「レリオ、急いで治療師を呼べ!」 「は、はいっ!」  レリオが転がるように駆けていく。  それを見送る間も惜しく、リュイはレンを抱えたまま居室へと急いだ。  部屋に入ってすぐに、リュイはレンの体をそっと寝台へ横たえた。柔らかな寝具に触れたせいか、緊張が緩んだかのようにレンの唇から小さな息がこぼれる。 「レン……」  濡れる髪を指で撫で上げると、閉じられていた瞼がわずかに震え、細く開いた。辛いのだろう、黒い瞳には涙が滲んでいる。すぐに視線は落ち、再び静かな呼吸がレンの唇から漏れた。 「……すまない」  レンは「謝ることない」と言っていたが、肌が触れ合うほど近くにいながら不調に気づけなかった――そんな自分がどうしようもなく情けなかった。  少しの表情の変化を読み取り、寄り添って守る――それが自分の役目のはずなのに。 (――楽しかったからなど、言い訳にもならない)  駆け込んできた治療師が、臥せるレンを見て眉を寄せる。リュイは邪魔にならないように一歩下がり、そうすることしかできない自分をまた不甲斐なく思った。  やがて治療が終わり、翌朝には回復することを伝えられると、リュイはようやくまともに呼吸をすることができた。  治療師が退出する間際「夜は冷えますよ」と、未だ脱衣所を出たままの格好であるリュイを見て言う。治療のあいだレリオから服を受け取っていたことすら、完全に頭から抜けていた。  服を身につけ寝台に寄ると、レンが寝息を立てていた。  血色の戻った頬に、そっと触れる。 「……無事で良かった」  誰にも聞こえないほど小さな声で、リュイは呟いた。    傍の椅子に腰を下ろすと、張り詰めていたものが途端にほどけ、全身から力が抜け落ちそうだった。  それでもリュイは、レンの穏やかな寝顔をただ静かに、長いあいだ見つめ続けた。

ともだちにシェアしよう!