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第6章 仮初の安らぎ -1-

「……俺は一生……ここで……神殿で……暮らさなきゃいけないってこと?」  レンは答えを知りたくなくて、リュイから目を逸らした。  視線に魔晶球が映る。世界に迫る瘴気。神殿という檻の中で、それを祓い続けるだけの存在になれということか。  そんな酷いことをリュイは言わない。そう信じたい。  遠くで雷鳴が響く。 「……俺じゃない」  レンの言葉を否定するように、激しい雨粒が窓を叩いた。 「……俺が……やってるんじゃないよ」 「わかっている」  レンはリュイを見た。 「……レン」  今まで聞いたことのない優しい声音で、リュイが名を呼んだ。 「慰めになるかわからないが、神殿の者もみな、ここで生涯を過ごす」 「どういう……こと……?」 「稀人が召喚されたら、神殿の任に就く者は住居を神殿に移す決まりになっている」 「俺が……稀人が……外に出られないから?」 「いや、より警備を強化するためだ」  リュイはそう言ったが、それがレンに気負わせないための嘘だとわかった。 「俺もここで暮らす。レンが少しでも穏やかに暮らせるように、手を尽くすことを誓おう」  そう告げたリュイが、深く頭を下げた。  レンは目の奥が熱くなるのを感じた。懸命に涙を堪える。雨が一層激しく窓を叩いた。  残酷だなと、レンは思った。リュイの忠誠が、親愛が、純粋な分、余計に悲しい。 「……それは、だめだ」  ゆっくりと息を吐いてから、レンは言った。  震える声を隠すために、もう一度しっかりと呼吸をする。 「母親の話、してただろ。領地に住んでるって。たぶんリュイのお母さん、あのスープ以外のレシピも教えたいと思うよ。だからさ……二度と会えないとか駄目だよ」  ちゃんと話せていることに安堵した。  大丈夫だと、自分に言い聞かせる。 「レリオも家族に会いたいだろうし、他の人だって、残した大事な人がいるだろ?」  リュイが何か言おうと口を開いたが、それを遮るように、レンは言葉を続けた。 「俺はここで暮らす。瘴気もちゃんと祓う。俺は大丈夫だから、みんなはここに縛られちゃ駄目だ」 「だが……」 「リュイ、俺は稀人……この神殿の王。……そうだろう?」  レンは視線を窓へと向けた。  視界の端で、リュイが息を呑む気配がする。  雨が止む気配はなかった――。

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