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第7章 名を呼ぶ夢 -1-
「これは……ふむ……」
柘榴の塔で、届いたばかりの書簡に目を通していたアシュアが、不意に眉根を寄せた。
近寄ったリュイに、アシュアが無言で書簡を差し出す。
それを読んだリュイもまた、眉間に深い皺を刻んだ。
書簡は、辺境領主から至急の報せを伝えるものだった。
「結界が……?」
「ああ……」
ちょうど部屋に入ってきたラティが、二人に駆け寄った。
「なぁ、ちょっと聞いて欲しいことが――どうした?」
リュイがアシュアへ一瞥を向けたあと、ラティに書簡を渡す。
「わずかだが……辺境の結界に揺らぎが出たそうだ」
「……!」
書簡を奪い取ったラティが、中身を見て唇を噛む。
アシュアが険しい表情をリュイへと向けた。
「稀人……イブキ様は?」
問いかけの意味を理解したリュイが、首を左右に振った。
「まだ何も。魔力も感じない状態だ」
「そうか……」
深く息をついたアシュアが、何かに気づいてラティを見た。
「ラティ、何か言いかけていたようだけど、君のほうでも問題が?」
「ああ……だが今は……いや」
しばらく考え込んでいたラティが、顔を上げた。
「今朝ウリアが魔法陣について妙なことを言っててな。俺は魔法についてはてんでダメだから、お前らに意見を聞こうと思ったんだ」
「妙なこと、とは?」
「あー……俺じゃあ説明が難しい。ちょっと水晶の塔まで来てくれないか」
「私は構わないよ。もしかしたら結界のことと関係があるかもしれないからね」
リュイも頷き、三人で水晶の塔へと向かった。
水晶の塔は、神殿のほぼ中心――中央庭園のど真ん中にそびえる、魔法陣を保護するための建物だ。それは神殿の中で一際高く、外壁は白いが尖塔の先だけが妙に黒いのは、瘴気の毒素を受け止めているからだという噂もあった。
普段は神殿魔術師のみが出入りを許される水晶の塔へ向かうと、入り口付近で黒いローブ姿の男たちが何か言い争っていた。
「ウリア」
ラティが歩を早めながら名を呼ぶと、ローブと同じ髪色の男が振り向いた。だがラティをちらりと見て、すぐに視線を戻す。
「とにかくそこをどけ」
「いくらあなたでも禁忌を冒すことは許されません」
ウリアと言い争っているのは、まだ年若い魔術師たちだ。ラティが間に入り、ひとまずウリアを引き離した。
「ウリア、何があった」
「見ての通り、塔に入るのを邪魔されているんだ」
即座に魔術師のひとりが「ウリア殿が魔法陣に触ろうとするから」と異議を唱える。
「……魔法陣は触れることを禁じられているのでは?」
アシュアが思わず言葉を挟む。
魔法陣は、現代魔法では解読不能な術式によって構築されている。
太古の時代に神によって創造されたと伝えられ、万が一欠ければ修復の手立てはない。
それゆえ、いつの時代からか魔法陣の周囲には幾重もの結界が張られ、これを維持するために神殿魔術師という職が生まれた。
神殿魔術師の役目は、結界に魔力を注ぎ続けること。
そして――決して魔法陣そのものに触れてはならない。
それが、神殿における不文律だ。
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