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第7章 名を呼ぶ夢 -4-

 夢の中のレンは、自由に大地を駆け、魔法を操り、瘴気を祓っていた。稀人の日記に書かれていた『あらゆることがわかった』感覚を理解できていた。  レンは横になったまま、天井へと片手を伸ばした。夢の中でやったように左右に動かすが、何も感じない。  夢の中ではすべてわかるのに、目覚めた途端、それは失われてしまう。 「レン?」  何度か試していると、横から声をかけられた。いつの間に部屋に入ってきたのか、リュイが立っている。 「お、おはよう。いい天気だな」  レンは適当に誤魔化すと、体を起こした。 「ああ、おはよう」  夢のこととは別に、もうひとつ、いつの間にか習慣になっていることがあった。  リュイが毎朝欠かさず、レンを起こしに来るようになったのだ。 「今朝も顔色は良さそうだな」 「ああ、おかげさまで」  リュイは「魔法の副作用がないか確かめるため」と言っていた。だが、レンの顔色を見るだけでは終わらず、朝食の準備や、着替えまで甲斐甲斐しく手伝ってくることもあった。  今朝もレンが軽装に着替え終えた時には、リュイの手により朝食の準備が整えられていた。おかげでここ数日は、睡眠だけでなく、食事も少量だがとれるようになっていた。 「……そうだ。今日は朝風呂に入ろうと思うんだ」  食後の紅茶を口に運びながらレンが何気なく言うと、リュイの手がわずかに止まった。 「……そうか」  それだけ答えて、リュイは視線を落とす。すぐにティーポットを手に取ったが、動きはほんの一拍、遅れていた。 「もう一杯飲むか?」 「いや、大丈夫」  レンはそう返しながら、リュイの横顔を盗み見る。  何かを考えている――そんな気配だけが、はっきりと伝わってきた。 「リュイは……どうする?」  問いかけは、思ったよりも静かな声になった。 「俺は騎士団の訓練がある。今回も、レリオに付き添ってもらうといい」  それはいつも通りの言葉だった。理由も、態度も、何ひとつおかしいところはない。だが――。 (……やっぱり必要以上には、関わろうとしてこない)  あの晩から、リュイはレンの世話に積極的になったが、同時に一線を引くようにもなった。食事中の雑談も少なくなり、用事が終わればすぐにどこかへと行ってしまう。そして、あれだけこだわっていた入浴中の付き添いをレリオに任せるようになった。  レンは小さく頷いた。 「……そう、だよな」  自分に言い聞かせるように言い、カップに視線を落とす。  稀人のレンに何かあれば厄災に繋がる――この世界の掟だ。だから見守る。最初からそうだった。レリオがその役目を果たせるのなら、リュイが共にいる必要などないのだ。  朝起こしにくるのも、食事の支度をするのも。  稀人を守り、稀人の力を発露させ――瘴気からこの世界を守るため。   (――もし、このままずっと、力を得られなかったら?)  そうした不安と、もうひとつ。  胸の奥に、うまく名前をつけられない感情が残った――。

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