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第10章 神へ至る夜 -2-
「レリオ……大丈夫か?」
目を覚ましたレリオは、ゆっくりと頷きを返し、それからはっとして半身を起こした。
「ひどい怪我だったんだ。まだ動かないほうがいい」
アシュアが安心させるようにレリオの背中を撫でる。そして、レリオが、全身が擦り傷だらけの状態で突然目の前に現れたことを話した。
「中で何があったか話せるか?」
レリオは全身を走る怖気を深呼吸で吐き出そうとした。彼の恐怖が伝わったのか、アシュアの表情が険しくなる。
「あれは……人の姿をしていましたが……人ではありませんでした……。おそろしい……まるで怒りの感情そのもので……」
消えない恐怖と戦いながら、レリオは語った。
エメルと名乗ったこと。彼が古代の時代の人だということ。彼が魔法陣を作り、のちに別の者によって書き換えられたこと。
そして、人々が、稀人にした仕打ちまでも。
「飛ばされる瞬間、見えたんです。全部……頭に流れ込んできて……」
レリオは、震える手を強く握り締め、涙を流しながらアシュアを見た。
「僕たちは……なんてひどいことを……」
「レリオ……」
アシュアは、泣き続けるレリオを治療師に預け、その場を離れた。いつの間にいたのか、ウリアが彼の横に立つ。
「古代の魔法……書き換え……そうかだから……」
独り言を繰り返す彼の隣で、アシュアも頭の中を整理しようとした。
レリオの言葉が真実なら、エメルと名乗ったその男は世界を破壊しようとしている。
なんとか止めなければならない。だが、かつて神と同一視された彼の暴挙を、果たしてどうすれば止められるのか。
ため息とともに、アシュアは嵐の中にある神殿を見た。
その時、神殿の中から一筋の光が放たれた。それは四方に広がり、巨大な油膜のような透明な壁が追従していく。
「これは……一体……」
呆然とするアシュアの声に気づいたウリアが、顔を上げ、目を見開いた。
「結界魔法……」
そう言いながら、ウリアは自分の言葉が信じられないという表情をしている。
「まさか……そんな……。こんな……こんな術式は見たことが……いや」
言葉を止めたウリアが、「ああ」と感嘆にも似た声を漏らした。
「これは、“草原を駆ける風”だ……」
そう呟き、ウリアは身を震わせた。
「ウリア!」
その時、ラティが駆け寄り、ウリアに抱きついた。
「良かった無事だったか! 嵐を見て引き返したんだ。怪我は――」
ラティが、ウリアを見て息を呑む。
「泣いているのか?」
そう言われ、ウリアは自分が泣いていることに気づいた。
ウリアを抱きしめたまま、ラティが空を見上げる。
「あれは……?」
「結界魔法だ。先代の稀人のものよりも、ずっと強大で精度が高い……」
そう言いながら、ウリアは無意識にラティの腕を掴んだ。
「なんて……なんて美しい……そして悲しい旋律だろう……」
ラティには、ウリアの言っている意味がわからなかった。
ただ腕の中で身震いする体を抱きしめることしかできず、そんな自分を歯痒く思いながら、空に広がる結界を睨み続けた。
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