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第10章 神へ至る夜 -4-
レンが目を開けると、風が吹き、木々が一斉に揺れた。
木から落ちる紅葉が、鼻先を掠めていく。
(……また、夢の中か)
スピカに力を貸してくれと頼んだが、これがスピカにとっての限界なのか、それとも最初から手を貸すつもりはないのか――。
焦るレンの心とは裏腹に、胸の奥底は暗く冷え切っている。視界が動き、木々の合間から、小川が見えた。
川を流れる紅葉を追っていた視線が、不意に止まった。
川のほとりに、女性が屈んで洗濯をしていた。水が冷たいのだろう。時折手をさすりながらも、楽しそうな鼻歌が聞こえる。
レンは彼女に見覚えがあった。アヴェンの妻だ。
洗濯をするアヴェンの妻を、エメルが木陰から見つめている。
(なんだ……?)
レンの中に、どろりとした感情が流れ込んできた。
そしてそれは、彼女が洗濯しているものが産着だと気づいた瞬間、別のものに変わった。
(え……?)
ぞくりと、何かが迫り上がってくる。
暗雲があたりに立ちこめ、細かな雷光を走らせた。異変に気づいた女性が立ち上がる。それとほぼ同時に、落雷が、彼女を貫いた。
悲鳴をあげる間もなく、彼女はうつ伏せに倒れた。川面が跳ね、彼女が手にしていた産着が、落ち葉とともに川を流れていく。
(殺した……? エメルが……?)
遠くから、誰かの声がする。
視線が動き、彼女に背を向ける格好で、その場を離れた。
落ち葉が雨のように視界を塞ぐ。
一瞬だけ視界が暗転し――次に現れたのは、別の景色だった。
「……急に天候が変わるなんて」
そう言った誰かが、部屋に入ってきたアヴェンを見て言葉を止めた。
慰めるようにアヴェンの肩を叩くと、そそくさと部屋を出ていく。
アヴェンは椅子にどかりと腰を落とした。頭を抱えて俯き、深いため息を吐く。
「まだ18にも満たないのに……」
気落ちするアヴェンをじっと見つめる。
どのくらいそうしていたか――その静寂は、隣室から聞こえる赤子の声で破られた。
「……ともに育てようか」
隣室の扉へと目を遣りそう言うと、アヴェンが顔を上げた。
「私とお前でともに暮らし、あの子を育てようか」
もう一度言う。アヴェンは目を見開いた。
しばらくこちらを凝視し、やがて口を開いた。何かを言いかけ、だが口を閉ざす。何度かそれを繰り返したあと、アヴェンはゆっくりと立ち上がった。
「いいのか、エメル。お前はそれで」
「私から言い出したことだ」
静かな声でそう告げる。アヴェンは頷いた。
「……アヴェン、愛しているよ」
視界の中のアヴェンの体が、かすかに揺れた。
一瞬だけ目を伏せたアヴェンが、こちらに目を合わせることなく、近づいてくる。
アヴェンの両腕が、体を包んだ。
「俺も愛している。親愛なる我が友よ」
耳元でアヴェンが囁き、視界は再び暗転した。
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