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 隣国の王は疫病に感染。体調を大きく崩しそのままに亡くなったという。 「ルー」  親父――国王が俺を呼び出した。何を言われるかは想像がついていた。  国王は俺に隣国を訪問し、弔意を述べるように命じた。  言われなくても俺はそうするつもりだった。  そのとき俺はフェンのことを考えていなかった――一人のこの国の皇子として、そうしなければならないと思っていた。数週間前ならそうではなかっただろう。しかし、もうこの国は互いに無関係ではないのだ。  真っ黒い服に身を包んで馬車へ乗り込む。俺は『扉』をくぐって、ついに隣国へ訪問した。  馬車はゆっくりと隣国の王城へと向かった。道中、民衆が我々の車に気がつくと――胸に手を添えて深々と頭を下げた。  こんな形での訪問になるとは思っていなかった。  葬儀というのはいつだって人のこころに重くのしかかり、気分を暗くさせる。  街中を見回す。人通りは非常に少ない。家々には白と黒の国旗が掲げられ――かすかな風に揺られるように小さくはためいていた。曇っているのもあるだろうが、重く沈んだ空気だった。疫病の流行で疲弊しているところに、大きな精神的ダメージだったろう。  馬車は城に辿り着いた。  そのまま俺は葬儀へ参列した。疫病のせいもあるのだろう、来賓は少なく、式は厳粛に行われた。  棺を見送ったのち、フェンが俺に近づいてくる。 「ルー皇子」  フェンの顔には悲しみの色が宿っていた。  俺は何か言おうと思い、何を言ってもお決まりの言葉になってしまいそうで黙ってしまった。そのときの俺は、そういう言葉を使いたくなかった。 「来てくださって、本当に嬉しいです」  黙っている俺にフェンが言う。その目元が少し腫れているのを見て、俺の口から言葉が滑り出た。 「――私が」  フェンが俺を見つめる。 「私がもっと早く支援を決めていれば」  驚いたようにフェンの目が見開かれた。 「そうすれば、王は助かったかもしれない――助けることができたかもしれない」  フェンは首を振った。 「皇子、ありがとうございます。でもこれは私たちの問題です――あなたがこころを痛めてくれるのはとても嬉しい」  続けて言う。 「でも、あまり苦しまないでください。あなたはもう十分すぎるほどのことをしてくださっています」  フェンは俺の手を強く握った。 「本当にありがとう」  フェンの顔を見て、俺はかえって彼を苦しませてしまったかもしれないと思う。 「フェン」  後ろから声がかかった。俺は振り返る。  フェンが「兄さん」と呼びかけた。 「そちらの方は?」  俺を見ながらその男が言う――フェンの兄ということは、この男が第一皇子のケウなのだとわかる。フェンと同じ金色の髪、青い目。パーツは似通っているはずなのに、まるで違う印象だ。幼さの残るフェンに対して、ケウは大人びた顔をしていた。理知的な印象だ。 「隣国の、皇子のルー様です」  フェンが言う。俺は頭を下げる。 「この度はご来訪誠にありがとうございます――そして、このたびの支援のお礼をまだしっかりとしておらず、本当に申し訳ありません」 「いえ、……疫病の対応でお忙しいでしょう。何よりもそちらが最優先ですから」 「重ねてのお心遣い、感謝いたします」 「いえ、そんな」  ケウはしばらくじっと頭を下げていた。顔をあげると、 「少し、フェンと話が」  そう言う。 「あ、ああ失礼しました」  俺は慌ててその場を離れた。部屋を出ていく前に振り返ると、真剣な表情で兄と話すフェンが見えた。  その後にはフェンの兄――ケウ皇子への戴冠式も行われるとのことだった。だが、状況が状況なのでそれはひそやかに、内々で行われるそうだ。  戴冠式。  そうか。  俺は当たり前のことに気がつく。  フェンはもう皇子ではなくなるのだ。

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