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 ルー皇子へ  この度はご支援のほど、誠にありがとうございました。  おかげさまで疫病の猛威は去りつつあります。  国民も少しずつ元気を取り戻し、日常を取り戻していっている途中です。  感謝に感謝を重ねても足りません。  今回の感謝の意を込め、あなた方を歓迎いたします。  改めてまた私たちの国に、ぜひご来訪いただければと思います。     ‡ 『扉』は開いていた。人々は少しずつ互いの国を訪れ、今までの空白の期間を埋めるように交流を始めている。まるで「はじめまして」と言うみたいに不器用な交流だけれど、そこから始めるしかないのだ。そしてきっと人々は、それを楽しいと感じている。  フェンからの手紙を受け取って、俺は改めてかの国を訪れることになった。今度は黒い服ではない。この国らしい鮮やかな服に身を包んで、俺は馬車に乗り込んだ。  扉の近くでは、人々が何やら話をしている。今までこんな交流がなかったなんてと改めて思う。他の国とは、当たり前にしていたことなのに。  フェンは扉のすぐ向こうで待っていた。俺は馬車を降りる。 「お待ちしておりました」  フェンが微笑む。その微笑みに、特別な何かがあると思うのは自惚れだろうか?  俺はフェンの国の馬車に乗り込んで移動した。  あのとき以来の訪問だ。今日は綺麗に空は晴れ、街中が見渡せる。  美しい国だと思う。もちろん俺の国も美しく愛しているが、性質が違う。建物の壁のトーンは統一され、落ち着いている。道路や敷地もきちっと整備されている。  この国は「調和」と「理性」、そして「自制」で成立しているのだ。すべての人が小さく等しく犠牲を払って成立している。やはり俺の国とは対照的だった。  城の前では、民衆が俺の来訪を歓迎してくれた。綺麗に並んで、俺を出迎える。俺はこんなに歓待されると思っていなかったので驚いた。  フェンが話す。 「この国の民は、ずっと悔やんでいたのです。あなたたちを切り捨てる決断をしたことを。『扉』を閉めたことを」 「だったら――」  扉を開けてくれればよかった。  そう思った。だけどそれはきっと簡単じゃない。なぜなら、向こうからもこちらは見えないのだから。切り捨てた相手が、自分たちのことをどれほど恨んでいるか。悪い想像というのは膨らむものだ。そうして、不幸にも百年が経ってしまった。 「まだ間に合う」  俺は誰に言うでもなく呟いた。  国王になったケウが俺を出迎えた。ケウはすっかり威厳を身に纏い、しっかりと『王』としての風格を備えていた。人間はこんな短期間で変わるものだろうかと思うけれど、あれだけの国難を乗り越えたのだ。当たり前と言えば当たり前なのかもしれなかった。  儀礼的な挨拶を終えたのち、ケウは言った。 「フェンとは随分打ち解けているようで」  どきりとした。俺の脳裏に鮮やかにフェンとのキスが蘇った。もしかして、わかって言っているんだろうか。いやいやまさか。 「ええ、親しくさせていただいています」  俺は頑張ってしれっと答える。動揺が顔に出ていないといい。 「あいつは子どもの頃から随分やんちゃでね。好奇心が旺盛なんです」  確かに。そんな感じがする。 「私は手を焼かされました」  そう言って困ったような顔をする。だけどそれは、親しいからこその表情だ。 「でも、――あいつには幸せになってほしい」  俺は部屋を出た。フェンが待っていた。  考えていた。ケウはどうしてあんな話をしたのだろう? 「難しい顔してる」  そう言って、フェンがつんと俺の手をつついてきた。 「こっち」  フェンは俺を、人気のない部屋に連れ込んだ。見回すと本がたくさんある。おそらく図書室だろう。  俺はフェンの顔を見る。フェンはそのあどけない目で俺を見つめている――俺はゆっくりとフェンの肩を掴んで顔を近づけた。フェンはそっと、強く俺の胸を押し返した。  拒絶されたという事実にショックで愕然としていると、フェンは言った。 「夜に」 「?」 「――僕の部屋に来てくれ」  顔を見る。フェンの顔は真っ赤だった。 「いろいろ、話でもしよう」  そう言った。  話。  話、ね。

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