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第9話 通知が来るのをそわそわして待ってしまう
星七くんと出逢った日の夜のこと。ネコネコマートの御茶ノ水店にタクシーが停まった。僕は運転手に「ありがとうございます」と告げて、ネコネコマートの自動ドアを通る。
ネコネコマート限定の猫の顔の形をしたラズベリー味のマカロンアイスを買うためだ。それと、食材もいくつか買いたい。
ネコネコマートは猫をモチーフにしたコンビニエンスストアで、関東圏で展開している地域密着型のコンビニだ。商品展開は、コンビニとスーパーのちょうど間くらいの品揃え。スーパーほど売り場は大きくないけど、一般的なコンビニよりも生鮮食品が多く、お肉や魚も新鮮なものを取り揃えている。
実際に、僕の家はネコネコマートから徒歩5分のところにある。買い物かごに明日の朝ごはんを入れていく。明日は月曜日。週5日、土日祝休みの会社員の僕にとって月曜日は大事な日。1週間のスイッチを入れる日だから。
朝からしっかり食べて、1日元気に過ごせるようにしよう。そう考えて、冷凍のブロッコリーと味付き枝豆をかごに入れた。スープは大好きなしじみの味噌汁に、乾燥わかめと乾燥油揚げを入れてボリュームアップさせるのが僕の節約のコツ。
お米は冷凍したものがあるから、買わなくても大丈夫そう。
おかずはどうしようかと悩んで、帰ったら豆腐ハンバーグを作ることにした。絹の豆腐を2丁かごに入れ、ひき肉もお買い得なパックを選んだ。
ネコネコマートを出ると、既に外が真っ暗になっていた。春先とは言え、まだ夜間は冷える。僕はぷるぷる震えながら家へ帰った。
「ただいま」
玄関先にあるシマエナガのポストカードにおかえりの挨拶をする。もちろん、返事なんか返ってこないけどなんか安心する。無音なのが寂しくて、適当にテレビを付けた。日曜日の夜のバラエティ番組が放送されていた。番組名は『世界の秘境旅』。芸能人やアイドル、芸人が世界各国の秘境を旅する様子を撮影した旅番組のようだ。
僕は普段、テレビを見るのは朝と夜のニュースくらい。たまにこうやって無音が寂しい時に適当なチャンネルに合わせる程度。
7畳ワンルームの部屋だと、そんなにキッチンとリビングが離れてないからテレビを見流しながら家事ができる。あるいは、テレビを付けない時はスマホで音楽を聞いたり、契約しているサブスクでアニメを見たりしている。
なんだか何もしない時間がすごくもったいなく感じて、なるべくなら同時並行的に物事を進めたくなるのだ。
「あ……ラップ切れちゃった」
豆腐ハンバーグを作る準備をしていたら、ラップが切れてしまったことに気づいた。
明日仕事の帰りに買わなくちゃ。
そう思って、スマホのスケジュール帳にメモしようとした時。ぴこん、とメッセージアプリから1件の通知が届いた。
「あっ」
僕は準備していた手を止めて、スマホの画面に釘付けになる。おそるおそる、アプリのアイコンをタップすると星七くんからのメッセージが届いていた。アイコンは黒猫のピンク色の肉球のイラストだった。
『深月。今日は猫カフェとご飯、楽しかったね。無事に帰れた? 明日からは仕事かな? ゆっくり休んでね。深月と話すの楽しかったから、俺も仕事頑張れそう。またた会おうね。おやすみ』
星七くんのメッセージは、僕のことを気遣う言葉ばかりでその場に膝から崩れ落ちてしまった。
──だってこんなふうに、心配されたことないから……。
メッセージを開いて読んだので、既読がついてしまった。僕はどんなことを送ったらいいか数分迷った末、一言。
『星七くん。今日はありがとう。僕もたくさん話せて楽しかったよ。また話せたら嬉しいな。仕事頑張ってね。おやすみ』
無難だけど、友達との最初のメッセージならこれくらいが普通かな? 重いって思われたくないし……。
僕はスマホの画面をひっくり返してソファに寝かせる。きっと、通知が来ないかとそわそわして眠れなくなるだろうから。
豆腐ハンバーグを作って少し味見して、明日の朝ごはんとお昼ご飯用にお弁当箱に詰めた。明日の朝は7時起きだ。目覚ましをセットしておやすみ準備万端。
スマホに触れたらずっと星七くんのことを考えてしまいそうで、怖かった。
もし、返信が来なかったら。もし、僕が送ったメッセージに変なところがあったらどうしよう、と。
不安を抱えて眠るのは怖いけど、なんでだろう。幼馴染を失って以来、ぽっかりと空いた僕の胸の空白を星七くんが埋めてくれたような気がした。
まだ1度しか会ったことがないのに。
初対面なのに。
こんなに気になるのはなんでだろう?
目を閉じれば、あの優しい笑顔の星七くんが浮かんだ。僕はベッドに入る前に、涙を拭いてもらったハンカチを手洗いして部屋に干していた。それがちらりと視界に入るとほっと肩の力が抜けた。僕はそのまま瞳を閉じて深い眠りへと落ちていった。
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