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第12話 星七くんとの寝落ち通話で癒されてすやすや
「ふう」
オフィスビルを出て、外の空気をめいっぱい吸い込んで大きく伸びをする。今日は定時で帰れた。今日はこのまま帰って家でゆっくりしよう。そう思って電車に乗り込む。
恐る恐るスマホの通知を確認する。星七くんと交換したメッセージアプリのアイコンにはまだ通知が届いていないようだ。
──はやく返信来ないかな。
星七くんとまた話したくて、画面越しでも繋がっていたくて帰宅してからもずっとそわそわスマホを見ては溜息、見ては溜息を繰り返していた。
「こんなことしててもしょうがないよね。お風呂入ろう」
大好きな入浴剤を入れてまったり湯船に浸かる。この時間が1日の中で1番リラックスできる。1日頑張った自分へのご褒美だ。
お風呂上がりに昨日、ネコネコマートで買った猫の顔の形のマカロンアイスをはむっと食べていた時に、スマホの通知が届いた。星七くんからだった。黒猫のピンク色の肉球のイラストを見てほっとする。
『返信遅くなってごめんね。仕事もう終わったかな?』
僕はラズベリー味のマカロンアイスを勢いよくはむはむ食べてから、返信を送る。スマホの上を高速で指先が動く。
『うん。大丈夫だよ! 気にしないで。僕は仕事終わって家に帰ってきてごろごろしてるよ』
ついでにポメラニアンがお腹を見せてごろごろしているイラストのスタンプを送った。すると、星七くんもスタンプで返してきた。
黒猫がにこにこ笑っているかわいいスタンプだ。吹き出しで『お疲れ様!』と書いてある。
『俺も仕事終わって今帰ってるとこ。お腹すいてきた』
『そうなんだ。はやく家につくといいね。そういえば、星七くんはどんなお仕事してるの?』
僕はふと、この1日ずっと気になっていた質問をぶつけてみることにした。僕は自分の仕事を伝えたし、星七くんの仕事も少し知りたくて。すると、星七くんは。
『深月に当ててもらうまでは秘密ね。そうだ。当てられたら、深月のお願いなんでも聞いてあげる』
そう、意味深な返しをしてきた。ミステリアスな星七くんらしいと言えばらしいけど……。
それに、当てられたら僕のお願いをなんでも聞いてくれるらしい。俄然、やる気が出た。僕は試しに星七くんっぽい仕事を挙げてみた。
『美容師さんとか、ペットトリマーさんとか?』
僕の予想には自信があった。猫好きで、銀髪で、おしゃれ。まだ1度しか会ったことはないけど、その中のいくつかのヒントを得て考えたのだ。
『んー。惜しい!』
『えー。難しいよ』
ぽんぽんやりとりが続いていたから、すごく心地いい。僕はベッドの上でごろごろしながらスマホを眺める。
『もう少しで家着く! あとで通話しない?』
え。通話、していいの?
僕の本音ではメッセージのやりとりも楽しいけど、声を聞けたらいいなと思っていたところだから。なんだか星七くんに僕の心を見透かされているような気がして恥ずかしい。
『うん! もちろん。通話したい!』
『わかった。30分後くらいにかけるね』
僕は星七くんのメッセージに既読を付けてスマホをベッドに置いた。どのくらいの時間話せるかわからないけど、一応水を入れたコップをベッドのサイドテーブルに用意する。話すのが楽しくなって喉がからからになるかもしれないから。
30分後。星七くんから電話がかかってきた。急いでスマホを手に持ち、通話許可ボタンを押して耳に押し当てる。
「もしもし……」
「遅くなってごめんね。深月」
きゅ、と胸が甘く高鳴る。星七くんに名前を呼ばれたから。低く、聞き心地の良い声で。
「ううん。僕のほうこそ、星七くんは家に帰ってきたばかりで大丈夫?」
「うん。さっきおにぎり食べたからお腹も膨れたし大丈夫だよ。深月は今、何してた?」
僕は、『星七くんからの電話をずっと待ってたよ』と言うのには少し躊躇いがあり、
「今、マカロンアイス食べてアニメ見てた」
と告げた。無難な答えだからいいかなと思って。すると星七くんは想像より遥かに食い気味で僕の返事を深堀りしてきた。
「えー? 何の味のアイス? アニメはどんな内容? 気になる」
まさか興味を持ってもらえるとは思ってなくて、僕はなるべく簡潔にアイスとアニメの内容を教えた。
「ええと、アイスはネコネコマート限定の猫の顔の形をしたラズベリー味のマカロンアイス。アニメは、魔法使いのうさぎが主人公の話で、旅をして出会った人達の悩みや困り事を魔法で解決していく話だよ」
「へえ。アイス美味しそう。俺も食べてみたい。アニメはかわいい話だね。深月が好きそう」
くすくす、とスマホ越しに星七くんの笑い声が聞こえてきた。
よかった。笑った声聞けた。
「動物には弱いんだよね、僕」
「優しいんだね」
何気ない会話の中で、僕は僕らしくいられた。
こんなに楽しい気持ちになれたのはいつぶりだろう。あの日、幼馴染の結婚式に行って以来かな。あの時はもう、未来のことなんてどうでもよくて、泣くのをやめたくてもやめられなかった。
けど、それがきっかけで猫カフェに行って星七くんと出会えた。
神様がいるんだとしたら、きっと星七くんは僕のもとに現れた天使なんだよね。星七くんが、僕のことを救世主と呼んでくれたように。
星七くん。
僕もなんだよ。僕のほうがずっとずっと、星七くんに助けられているんだよ。
本当はこの気持ちを伝えたい。
けど、まだ出会って少ししか経っていないのにこんなことを言ったら、引かれちゃうかもしれないから、言わない。僕の胸の中にとどめておく。
いつかこんな話ができるようになったら、その時伝えたい。
星七くんは僕にできた大切な友達だから。僕を救ってくれた人だから。
その後は他愛もない話をして、気づけば1時間近く通話していた。僕は癒しボイスの星七くんの声にすっかりハマってしまって、そのまま強い眠気に襲われた。
「……みつき。深月? ねむくなってきた?」
うとうとしていたのがバレてしまったらしい。僕は、はっとしてスマホをぎゅっと握りしめる。
まだ、星七くんの声を聞いていたくて──。
「ごっ、ごめん。星七くんの声、癒されるからねむくなってきちゃったみたい」
そう伝えると、ふふ、とスマホ越しでも星七くんが笑ったのが聞こえた。
「いいよ。俺は明日、休みだから夜更かしできるけど、深月は仕事あるでしょ? だから俺が寝かしつけてあげる」
「……寝かしつけって」
「ほら、俺だけ喋ってるから、そのまま寝落ちしてもいいよ。深月がすぴすぴ寝息立てたら通話を切るから」
「う……ありがとう」
「むしろ、俺のほうが話しすぎたかも。もう1時間も電話してたね。俺、普段は聞き役になることが多いんだけど、深月なら話しやすくてずっと話せる」
「……うれしい」
「おやすみ。深月。明日も仕事頑張って」
「うん……おやすみ」
照れ隠しでその一言しか呟けなかった僕は、星七くんの提案に甘えてそのまま癒しボイスに耳を傾けて寝落ちしてしまった。眠る直前まで、星七くんの優しくて安心する声が頭の中にこだましていた。
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