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第13話 みも先輩の本気の布教
「ねえ、ひな。今度さ、ライブ一緒に行かない?」
星七くんと寝落ち通話をした翌日の昼休み、コンビニで買った蒸しパンをかじっていたら、向かいに座っている先輩が身を乗り出してきた。みも先輩の手にはチョココロネ。
「ライブ、ですか?」
僕はぽんやりとしながら繰り返す。
「そう。 Milky Way って知ってる?」
名前だけは、聞いたことがあった。雑誌とか、SNSとかでよく見るやつ。たしか、2人組のアイドルの名前だよね。
「……ああ、なんか、ランキングで1位の……」
「そうそれ! 『国民的彼氏』ってやつ。あれキャッチコピーなんだ」
軽く笑いながら言うみも先輩の目が、ちょっとだけ本気で熱い。アイドルオタクスイッチが入っているようだ。
みも先輩と仲良くなってから、お昼休みやプライベートの飲みとかでよく一方的に推し語りをされてきたけど、僕はアイドルとか芸能人に疎くていつも聞き役だ。だから、みも先輩が目をキラキラさせて推しのブロマイドを見せてくれたり、推しぬいをゲットするためにゲームセンターでクレーンゲームに挑戦するのを隣で応援するのは楽しい。
だけど僕は、その2人組のアイドルについての知識はうっすらとしかない。
「俺さ、そのユニットの片方をずっと推してるのはひなも知ってるよね。『あおと』くん。もうめっちゃ爆ビジュ王子様なんだよ。だけど、もう一人はカリスマ枠っていうか、とにかく人気やばいんだけど」
「へえ……」
興奮して話すみも先輩を見つめる。正直、あまりピンときていなかった。アイドルに詳しいわけでもないし。推し活という言葉が自分には身近なものではないから。でも、みも先輩が推しのあおとくんについて語っているのを聞いているのは楽しい。大切な友達の推しの話ならずっと聞いてられる。
Milky Wayのあおとくんがみも先輩に与えている影響は相当大きなものらしく、あおとくんと同じスニーカーを買ったり、あおとくんがブランドモデルをしているショップの商品は全部持っているという熱量の高いオタクなのだ。
そんなふうにたったひとりのことを愛して尽くせる人はすごいと思う。そんなことを考えていたら、みも先輩はスマホを取り出して、画面をこちらに向けてきた。
「でさ、コンセプトもいいんだよ。Milky Way、天の川って意味でさ」
ステージの写真。光の中に立つ二人組。たくさんの銀テープが空を舞っている。
「ファンのこと、『織姫』って呼ぶんだよ」
「織姫……?」
「で、自分たちは彦星。天の川を挟んでても、愛してるってコンセプトらしい」
どこか照れくさそうに笑いながら、それでも嬉しそうに語るみも先輩に、少しだけ胸の奥がくすぐられる。
そっかあ。じゃあ、みも先輩はあおとくんの織姫なんだ。
「年に1回、ファンミがあって。抽選で当たった人だけ、直接会えるんだよ。握手会とかサイン会とか」
「へえ……すごいですね」
「でしょ? まあそれは置いといて、とりあえずライブ。な?」
ぐっと距離を詰められて、思わず少し身を引く。
「いや、僕、そういうの全然わかんないですし……」
「大丈夫大丈夫。ペンラも貸すし、チケット代も俺が出すよ」
「え、いや、それはさすがに……」
「いいから。1回でいいから来てみてよ。絶対ハマるから」
断る隙を与えない勢いに、苦笑するしかない。
──そこまで言うなら、まあ。
「……じゃあ、一回だけ」
「やったあ!」
ぱっと顔を明るくする先輩に、つられて少しだけ笑ってしまう。
スマホの画面が、まだテーブルの上に置かれたままだった。
そこに映っている二人組のうちの一人に、ふと目が止まる。
照明のせいか、角度のせいか。
──なんとなく。
どこかで見たことがあるような気がした。
「……」
でも、すぐに首を振る。
いや、まさか。
こんな遠い世界の人が。
知り合いなわけ、ないよね。
雰囲気は似てるけど、オーラが全然違う。
きっと、人違いだよね。
ただのそっくりさんかもしれないし……。
艶のある銀髪はセットされていていつもより色気がある。
大きな切れ長の二重の下に浮かぶ黒曜石のような黒い瞳。すっと通った鼻筋。薄くて形のいい唇。
確かに僕はその顔の特徴を持つ人を知っている。だけど、信じられない気持ち半分、信じたくない気持ち半分のまま画面を食い入るように見つめる。
「星七くんなわけ、ないよね……」
力なくぽつりと零れた言葉は、オフィスの喧騒にかき消されていった。
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