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第14話 星七くんのお仕事は〇〇〇〇
「ひなー!」
「みも先輩っ。おはようございます」
Milky Wayのライブ当日。みも先輩と待ち合わせした駅には、僕らと同じように友達を探す人達でごった返していた。僕らも15分近く通話しながらやっとお互い落ち合えたのだ。
「やっと見つけた……。まだライブ前なのにへとへとになるよ」
みも先輩が自分側に向けていた痛バの表側をひっくり返して見せてくれる。推しのあおとくんの缶バッジが20個くらい整然と並んでいて、推しぬいまで入っていた。黒の痛バで、持ち手にはフリルや黒いリボンがたくさんくっついている。あおとくんのメンカラは黒らしい。艶のある黒髪と、左目の下にある泣きぼくろがチャームポイントなのだと、みも先輩が前に教えてくれた。
「気合い入ってますね。そんなに缶バッジを付けていると重くて肩とか痛くなりません?」
僕の言葉をみも先輩はぐっと親指を上げて笑い飛ばす。
「そんなの推しへの愛の重さに比べたらどうってことないよ」
「……なるほど」
そう。今日は僕はみも先輩の推し活に同行している。
ちょうどみも先輩からMilky Wayという2人組のアイドルグループを布教され一緒にライブに行こうと約束した。それから約1週間後、推し=Milky Wayのライブがドームであるとのことで僕も連れて行ってもらうことになった。
ペンライトは気前よく貸してくれたし、1席3万円するプレミアムチケット代も先輩が払ってくれた。僕はそれを有難く受け取り、気になっている1つの謎を解明するためにここに来た。
プレミアムチケットの席はドーム中央のステージのセンターの目の前で、みも先輩によると、あおとくんとの距離は100メートルくらいなんだそう。
それなら、僕の目的も果たせるはずだ。
Milky Wayの2人組アイドルのカリスマ的存在の『せな』という男性。この人と僕が出会った星七くんにはいくつか共通点がある。
たぶん、僕の気のせいだと思うけれど『せな』というアイドルは本当に僕の知っている星七くんなのか、今日はそれを確かめに来たのだ。
みも先輩にはこのことは伝えていない。もし伝えたら、驚かせちゃうだろうし。先輩には、推しのあおとくんに集中してライブを楽しんで欲しいから。
僕の今日の役割は主に、みも先輩のかっこよくてかわいい写真をたくさん撮ることだ。オタ活Vlogなんかも撮影する予定だ。それを動画投稿サイトにアップしてオタク友達を増やしているんだそう。
みも先輩は、会社でも僕と同じ広報部。特にPRに携わることが多い。普段から案件の推しポイントを見つけて発信するのが得意な先輩は、自分の推しの魅力を余すことなく全世界に発信している。ちょうど、昨日の夜に撮影前のイメージ共有として推し活チャンネルを教えてもらい、オタ活Vlog動画を見た。
推しについて熱く語るみも先輩はきらきらと輝いていた。先輩、普段はのほほんとマイペースな人なのに、推しのこととなると機敏な動きを見せたり、神席をゲットするためにチケ発に命をかけていて、運気が上がると言われる神社を巡るのも趣味なんだという。
「ひなーっ! ここで写真と動画撮ってー」
普段は、アイドルオタクの友達と写真を撮りあいっこするらしい。みも先輩は良い撮影ポイントを見つけたらしく、僕に声をかけてきた。
推しのフラッグやポスターの前、ドームの前でたくさん写真を撮るのがいつもの流れみたいだ。
「みも先輩。はい、ミルキー」
スマホの画面にみも先輩とあおとくんのフラッグをいい感じに納める。何度もカシャカシャとシャッターを切る。みも先輩はワンテイクごとにポーズを変えたり、痛バの見せ方を変えたりしてまるでモデルのように撮影慣れしている。
「ひな! 次は動画よろしくね」
「はーい」
みも先輩が僕が横向きに構えたスマホに向かって喋り出す。
「ミルキーチャンネルのみもです。今日はドームツアーにやって来ました! 今回、初めてライブ参戦する友達がこれ撮ってくれてます。ひな、ありがとー」
不意に画面外の僕に向かってみも先輩が笑顔で手を振ってくれたので、思わず僕も振り返した。すると、少しスマホを揺らしてしまい慌てて元の定位置に戻す。
「Milky Wayを推し続けて早2年。デビューから追いかけてきたので、こうやってファンの方がたくさんいるのを見るとすごく胸が熱くなります。今回は、ライブ当日の推し事ルーティーンやライブ後のリアクションを撮影する予定です。ぜひ、楽しんでくださーい」
みも先輩がスマホの画面からすっと消えた。そうして、僕の構えていたスマホに手をかざす。
「ひな。ありがと。ここ、他のファンの子たちも撮影待ちで列ができてるからそろそろおいとましよっか。いい画は撮れたし。サムネにしても良いかも」
そう言って他のファンの子達にも優しいお兄さんをしているみも先輩を見て、僕は更に先輩が誇らしくなった。
いよいよ。ライブのオープン時間になった。入場ゲートで長蛇の列に並び、指定された座席に着くまでに1時間かかった。
「うわ。ここ神席すぎるっ。こんなに近いの初めてかも」
「そうなんですか! ほんとに目の前にステージがありますね……。撮影用の機材もたくさん……。」
僕とみも先輩は、ラッキーなことにステージの最前列のど真ん中の席の隣同士だった。ちょうどセンターで分かれている。
初めてのライブ参戦とあって妙にそわそわしている僕を、先輩がからかってくる。
「もー。ひなってば、ひなが歌ったり踊ったりするんじゃないんだからもっとリラックス! リラックス!」
「は、はい……」
僕はふう、と深呼吸をして自分を落ち着かせた。どくどくと胸の鼓動が加速する。
だって、本当にMilky Wayの『せな』くんが僕の友達の星七くんだったら、どう反応すればいいんだろう。
そうだとしたら、アイドルをしている星七くんは僕にとってあまりにも遠い存在すぎて、猫カフェで会話したことさえ奇跡だと思う。
そんなことをぐるぐる考えていると、ついにライブがスタートした。
ドームの中が暗くなり、Milky Wayのヒット曲のイントロが流れ出す。スポットライトが暗闇のステージを2本の柱を交わらせて輝いた。
その直後、ぶわっとドーム内のファンの子たちが叫び声を上げた。キャーという黄色い声から、ギャーという鳴き声まで聞こえてくる。
隣で見ているみも先輩もその場でジャンプして光の溢れるステージの上に立つあおとくんを見つめている。
生あおとくん、初めて見た。顔、ちっちゃいな──。
みも先輩の視線を辿ったから、先に見えたのはあおとくんだった。フラッグやポスターに印刷された通り、美人な黒猫みたいな人。艶のある黒髪はマッシュみを帯びていて、前髪は重め。綺麗で繊細そうな二重と、つんと整った小さい鼻。左目の下には泣きぼくろが確かにあった。
僕は初めて見る生のアイドルに驚いて息を止めて見入っていた。
同じ世界にこういう人たちも生きてるんだ……。
そんな不思議な思いでステージに立つあおとくんを見つめていたら、不意に視線が交わった。ような気がした。あおとくんは口端を上げて微笑むと、僕に向かってハートポーズを送ってくれた。
「っ!」
あおくんの笑顔、破壊力やばい。
そう感じたのは僕だけではないようで、近くの席にいたファンの子達も嬉しそうに悲鳴を上げていた。
「やば。破壊力やばい。死ぬ」
隣でみも先輩が涙ぐみながらペンライトを振っている。
ただ、目が合っただけなのに、こんなに胸を鷲掴みにされるなんて──。
音響が良いから、流れる音楽が足元から振動を伴って僕の胸に響く。
あおとくんの一挙一動に見とれていると、再び別のスポットライトがステージにあたった。ステージの下から現れたのは、よく見知った容姿の彼にそっくりで──。
「「「せなくーん!」」」
と近くの席のファンの子達が名前を呼んでペンライトを振ったり、うちわをアピールしている。あおとくんのメンカラは黒色。『せな』という男性のメンカラは銀色らしい。
「っ!」
ステージの上に堂々と立つ姿に圧倒された。僕が会話した星七くんは、確かに見た目はそっくりだけど、纏うオーラが違った。
僕の知っている星七くんは、ほんわかしていて、優しくて、癒し系ボイスで。
なのに、今、目の前のステージに立つ人は、圧倒的なカリスマとオーラを放っている。
瞳も鼻も口も身体も見たことがあるはずなのに、脳内で処理できないでいた。
僕はその場に足から崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。隣で喜ぶみも先輩に迷惑をかけたくない。近くの席にいるファンの子達に迷惑をかけたくない。
僕はただ、無力にもその場でステージで舞う『せな』という星七くんにそっくりなアイドルを黙って見つめていることしかできなかった。
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