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第16話 アイドルの『せな』くんが添い寝してくれたの、夢みたい。
あれ、ここどこだろう?
薄く目を見開いた先に見えたのは、白い天井。
それと僕が寝ているのはベッド?
ベッドを囲うようにして黄色いカーテンに包まれている。
あれ、僕はどうしてここに?
思い出そうとすると、ずきんと頭に鈍い痛みが走った。思わず顔を顰めてしまう。ふと、毛布をかけられている胸の上に何かが乗っているのが見えて頭を持ち上げたその時だった。
視界が潤んだのは。
「……星七くん?」
僕の寝ているベッドの隣に横になっていたのは、さっきまでステージの上で歌って踊っていたMilky Wayの『せなくん』だったから。
軽く伏せられた瞳。瞼にはきらきらのホワイトラメのアイシャドウ。
睫毛、束感があって女の人みたいに綺麗だな……。
僕が星七くんと初めて会った時も、軽くメンズメイクはしていたと思う。けど、今の星七くんのお顔はアイドルの顔だ。ステージの上で踊っても乱れないように、そして遠くの観客にも見えるようにいつもより濃いめのメイクをしているように見える。
って、そんなことよりも今は……!
僕のちょうど胸の辺りに毛布越しとはいえ、星七くんの華奢で陶器みたいな白い手が乗せられている。
まずはこの状況を整理しなくっちゃ。
僕は起きたてでぽんやりする頭を必死に働かせて状況把握に努める。
ええと、たしかライブが終わって会場から出る時に体調が悪くなって、頭から床に落っこちそうになって……。
「あ、この甘い匂い……」
横を見つめる。そこには優雅に眠る王子様みたいな星七くんの顔がドアップで僕の視界をジャックした。
そして、ちょっとだけ顔を近づけて、すんすんと星七くんの胸元の匂いをかいでみた。香水の匂いだろうか。甘くて優しいホワイトムスクの匂い。
うん。やっぱりこの匂いだ。
僕が倒れた時、床に激突する前に抱きとめてくれたのはきっと──。
「深月って見かけによらず大胆だね」
「え?」
思わず声の降ってきた頭上を見上げた。
あ。この距離、まずいかも。
ほんの、目と鼻の先に星七くんの顔があったから。僕は星屑が瞬くように光に満ちた星七くんの瞳に吸い込まれるように息を止めた。
「お地蔵さんみたいに固まっちゃったね」
くすくす、と星七くんが笑う。僕はその時、やっとからかわれていることに気づいて、すぐさま後ろに仰け反った。けど、勢い余ってベッドから落っこちそうになり──。
「わっ」
「……もう、ほんと目が離せないよ」
ベッドから落っこちるのを救ってくれたのは、星七くんだった。
けど、体勢が非常に危険だ。
だって星七くんが僕に覆いかぶさって身体を抱きしめてくれてるから、ベッドから落ちずにすんだ。
すごく有難いんだけど、この近距離はなんか、よくないような……。
星七くんは衣装から着替えたのかラフな格好。フード付きのグレーのパーカーを着ている。少しダメージ加工がされてあって、やんちゃな印象。ズボンも同じダメージ加工がされたグレーのデニム。セットアップって言うのかな?
とにかく、服の上からでも互いの腰の骨がごつんとくっついてしまっている。それが恥ずかしくて仕方なくて僕は思わず上から見下ろしてくる星七くんのまっすぐな視線から逃げるように目線をずらした。
「どうしたの? 顔真っ赤。熱ある? 大丈夫?」
「えっと、だ、大丈夫。たぶん……」
誤魔化しながら告げると星七くんは急に真剣な目つきになって、僕のおでこに自身のおでこをこつん、と優しくくっつけてきた。
「っ!」
「ん。熱はなさそうだね」
鼻先がくっつくくらいのギリギリの距離。星七くんの薄くて形のいい唇が静かに離れていく。僕はそれをぽんやりする意識の中で黙って見つめていた。
「少し待ってて。今、水持ってくるから」
星七くんはそう僕に微笑むと、黄色いカーテンの向こう側へ行ってしまった。
「今の、距離感バグだよ……」
僕は両手で口元を押さえて思わず洩れた本音を隠すように口をチャックした。
もしかして星七くん、僕が起きるまで添い寝して様子を見守ってくれてたのかな? 星七くんに添い寝してもらえるなんて、夢みたい。特に、アイドルだって知っちゃったから余計に。
僕はそう思い出した瞬間に、全身の熱がすん、と冷めたのを感じて身体の反応は素直だなと感心すらしていた。
僕と星七くんはまったくの正反対の存在。
地球と冥王星くらい遠くの存在。
これって、そもそも現実なの?
僕はほっぺをぷに、と指先でつまんでみた。
ああ、ちゃんと痛いから、現実なんだ。
ライブが終わってからずっと、夢の世界にいるように足元が定まらない。
星七くんに聞きたいことは山ほどある。けど、自分なんかが聞いていいことなのかな?
触れずに見て見ぬふりをしたほうが、今までみたく仲のいい友達のままでいられるのかな?
僕の頭に浮かぶのはそればかり。
どうやったら、星七くんとの繋がりを保てるかを幾つもシュミレーションしていた。
始めから、繋がっていたかどうかさえわからないのに。僕の一方的な勘違いかもしれないのに。
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