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第17話 おくすり飲めたねLv100

「はい。お水」 「あ、ありがとう……」  星七くんは僕の手のひらにペットボトルのミネラルウォーターを載せてくれた。富士山の天然水、とラベルに書いてある。僕はそれを、キャップをひねって開けようとした。けれど、上手く力が入らなくてすぐに開けられないでいた。もたもたしている僕を横目に、星七くんが無言で 「ん」  と、小さく笑ってペットボトルを奪い蓋を開けてくれた。たったの1秒で開けてしまったようだ。僕は自分の非力な部分にスポットライトがあてられたような感覚に、恥ずかしくなって思わずぎゅっと口を噤んだ。 「どうしたの?」 「……ううん。なんでもないよ」  へらへら笑って誤魔化すと、星七くんはずいっと身体を近づけて僕の顔を覗き込んでくる。 「そんな泣きそうな顔されると、困る」 「え?」 「こんなに口をむぎゅっとしてたら、痛くなるから」 「んっ?」  星七くんが僕の閉じた唇の上に人差し指をそっと載せた。そのまま、すりすりと指の腹で撫でられる。あまりの近距離に惚けた僕の口は自然と緩んだ。さっきまでの己の未熟さによる羞恥は吹き飛ばされてしまった。それを見て安堵したのか星七くんは 「ん」  と頷くと僕の頭をよしよしと撫でてくれた。 「えらいえらい」 「……!」  なんか、これじゃあまるで僕、幼稚園児みたいだ。星七くんは保育士さん。僕は星組の幼稚園生。4月に入園したてで、まだ保育園に慣れてない人見知りの男の子。ママと離れるのが嫌で大泣きして、星七先生に抱っこされてあやされている僕……。と、そういう園児に手馴れている若手なのに子どもの扱いが上手な星七先生……の図が頭にやけにリアルに浮かんだ。 「一応、貧血っぽいからいつも俺が飲んでる鉄分のサプリあげる。はい。あーん」 「えっ……あっ……う?」  星七くんに顎を手で下から支えられて逃げ場がなくなった。言われるがまま、おバカな僕は口を少し開いてしまった。星七くんは慎重に僕の舌の上に白い小粒のカプセルをのせると、ミネラルウォーターを差し出してくれた。  僕はサプリを口に含んだ手前飲まなくちゃと焦り、ごくんと水を一口含んでサプリを飲み干した。  その間も、星七くんは僕の様子をのんびりした顔で見つめるだけで何もしてこない。こんな無言の時間が心地いいのは初めてだ。星七くんとなら、お互い黙っていても気を遣わないでいられる。安心できてしまう。  『対等の友達』という気がして嬉しいけれど、やっぱり星七くんがアイドルなのは間違いなさそうだし、それが余計に僕の頭を混乱させる。ぴよぴよと頭の周りにひよこが舞っているような感覚。目の前で起きている現実に脳内処理が追いつかない。  思考停止している僕に、星七くんが一言。 「おくすり飲めたね」 「……っっ!」  それ、反則です。  アイドルスマイルで『おくすり飲めたね Lv100』は、心臓に悪いです……。  僕はぼふんっと音が出るくらい、顔が真っ赤になった感覚がして慌てて毛布を頭まで被って隠した。それを見た星七くんは僕の挙動にきょとんとしたらしく、数秒遅れて笑い声が聞こえてきた。  そうこうしていると、急にドアの開く音が聞こえて、続いてバタバタと忙しない足音が近づいてきた。シャーっと黄色いカーテンを引いた足音の人物は、僕のベッドの脇に立つと息を飲んで様子を伺っているようだ。 「あの、お連れの方ですか?」 「あっ、はい。ひなの連れです」 「ひな?」  星七くんと喋ってる今の声、まさか──。 「みも先輩っ?」  僕は毛布を勢いよくめくりあげ、声の持ち主の顔を見つめた。 「ひ、ひなぁっ!」 「わっ」  僕に抱きついてきた時の、みも先輩の顔。涙をためていて、目がうるうるしてた。カラコン浮いちゃいますね、ごめんなさい。せっかくきらきらメイクしてるのに、僕が泣かせちゃった。 「ううっ。心配だったんだよう……!」 「は、はい。ご心配おかけしました。この通り、僕は元気です」  僕らのやりとりをじっと見守っていた星七くんだったが、その目はどこか鋭くてまるでステージの上にいた時みたいなカリスマオーラを放っている。さっきまで、僕といる時はほんわかしてる優しい雰囲気だったのに。どうしたんだろう?  あ、もしかしてキャラ作りのためかな? みも先輩は、僕と星七くんが友達だってこと知らないし、一般人とアイドルが馴れ馴れしくしてたら、他のファンに怪しまれちゃうよね。  僕はそうひとりで納得して、泣き続けるみも先輩の背中をよしよしとさすった。

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