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第20話 雨ぽつぽつりの映画デート、の前に事件発生(?)

「わ、結構降ってるな……。傘持ってくるの忘れちゃった……」  僕は六本木ヒルズ近くの駅の改札を出てから、空の様子を見て心の中でため息をついた。  確かに、今日は朝から曇天だったけどお昼のニュースの天気予報のお兄さんは「今日はこのあと快晴の予報なので傘はいりません!」 って自信満々に言ってたから折りたたみ傘は持っていかなくていいやって思って、玄関に置いてきてしまった。  うーん。自分のこういう所が隙があるというかなんというか。ぽんこつなんだよなあ、と一人で悶々としていると、スマホの画面が光った。星七くんからのメッセージだった。 『もう着いた?』  それと、かわいい黒猫のスタンプ。?マークを頭に浮かべてきょとんとしている。僕はぽちぽちと文字を打ちこんだ。 『六本木ヒルズの最寄り駅には着いたんだけど、傘持ってなくて雨が』  僕は汗マークをつけて送る。そしたら、ぽんとすぐに返信が届いた。 『迎えに行く。5分そこで待ってて』  迎えに来てくれるんだ、って思ったらさっきまで自分を責めていた気持ちがすうーっと晴れていった。星七くんの持つ不思議な力。何気ない言葉で僕の気持ちを明るくしてくれる。無意識なんだろうけど、やっぱり人の気持ちを明るくさせるアイドルだからそういうのが得意なんだろうな。  改札の外。他の通行人の邪魔にならない場所で壁に沿って立ちながら待っていると、近くにいた若い女性たちがざわざわと騒ぎ出した。しきりにそわそわとして、スマホを何度も確認している。  なんだろう?  そう思って顔を上げたその瞬間。 「お待たせ」 「っ……! せ、なくん」  透明なビニール傘を片手に迎えに来てくれたのは、王子様みたいな人だった。 「ここ、目立つから離れよう。来て」  僕は半ば引きずられるような形で星七くんの傘に入れてもらう。その時、ちょっと肩が当たって、雨に濡れた星七くんのシャツが布越しに擦れた。それがすごく胸にきゅっときて慌てて頭を振って、変な気持ちを頭から逸らす。  駅の改札前はいつのまにか数十人の人だかりができている。ほとんどが若い女性だ。 「ねえ、あれって……芸能人かな?」 「オーラすごいよね。モデルみたいにスタイルいいし」 「えっ。あれってMilky Wayのせなくんじゃん。あの私服の水色のシャツ、この前セレクトショップで買ったってSNSに上げてたよね」 「えっ。まじ? やばー。じゃあ一緒に傘に入ってる男は何?」 「さあ? 友達なんじゃない? プラベっぽいし」  そう言いつつ、彼女たちは僕らの後をつけるように距離を取って後ろをついてくる。  なんだか、ストーカーみたいで怖いな。  僕は嫌な鼓動に耳を塞ぎながら、星七くんにくっついて路地に入った。そして星七くんは急に傘を閉じて、僕の手を取り小さなスナックのお店に入った。  チリリン、と入口で鐘が鳴る。店内は薄暗く煙草の匂いが充満していた。僕はむせるように、ごほと軽く咳をする。それを見た星七くんは少し難しそうな顔をしてから、着ていた水色のシャツを脱いで僕の口と鼻を軽く塞いでくれた。 「っ……!?」 「ごめんね。少し息苦しいかもしれないけど、我慢して」  アイボリーのタンクトップを着た星七くんの真剣な瞳に思わずこくりと頷く。星七くんは店内の勝手を知っているようで、すいすいとお店の奥に僕を引っ張りながら歩いていった。お客さんはおらず、無人の店内にどこか夢うつつで足元がおぼつかない僕を優しくエスコートしてくれる。  店の奥まで来ると、畳1枚くらいのスペースに押し込まれた。パソコンや印刷機があるから、お店の事務所なのかもしれない。星七くんはその部屋にある小さな正方形の窓から外の音を聞いているようだった。  遠くから、さっきまで僕らをつけてきたファンと思われる人達の声が聞こえた。 「あれー? こっちのほう来たと思ったんだけどな」 「いやいや、ここスナック街だよ。せなくんが行くわけないって」 「そっかあ。残念。とりあえず、SNSで六本木でMilky Wayのせなくん見つけたって呟いとこ。他の捜索隊の子も探してくれるだろうし」 「いや、さすがにそれはさ……。いちおう、プライベートみたいだったしやめたほうが……」 「でもさー、そんなのうちらに関係なくない? アイドルやってるならこのくらい重いファン行動があるってことも理解してもらわないと、新規増やせないよ?」 「んー、それはそうかもしれないけど……」 「ほら行くよ。こんなところで突っ立ってても風邪ひくだけだから」  彼女たちの声と足音が遠ざかっていく。ほっとする気持ちの反面、先程まで話していた内容が恐ろしくてその場でごほごほとむせてしまった。 「大丈夫? ごめんねシャツで鼻と口塞げば、少しは煙草臭いの和らぐかなと思って」 「うん、ありがとう……」  むしろ、星七くんのシャツの匂いが優しすぎてずっとくんくんしていたくなりそうだから、僕みたいな変態からは私物のシャツを取り上げてください。  ホワイトリリーっていうのかな、甘くて落ち着く匂い。  星七くんはタンクトップを着ていたから、腕の筋肉がくっきり浮かんでいた。細身だと思ってたけど、脱いだらすごいタイプの人だ。腕はそんなに太くはないけど、凹凸がはっきりしていて鍛えているのが素人目の僕でもわかる。

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