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第24話 特別だってわかってほしくて、好きだよ深月。(星七視点)

 ……あーあ。やっちゃった。  俺は真下でとろけたおもちみたいな深月がぽーっとしてるのを見て黙ってその肩を撫でた。  深月。ごめんね。  俺は労る気持ちも込めつつ、華奢な肩をなでなでした。意識がふわふわしている深月は尚もぽーっと俺の顔を見つめている。  さて、これからどうするか……。  とりあえず、掃除するか。  ティッシュを掴んで服に飛び散った白いものを拭き取る。ついでに、深月の服についたものも。そうしてたら、深月が俺の腕をぎゅっと両手で抱き締めてきた。目がうるうるしている。よく、チワワとかが涙を浮かべているのと同じ感じ。  だめだよ深月、そんな|表情《かお》されたらまた襲いたくなる。  今にも「くぅん」と寂しそうな鳴き声を洩らしそうな深月。口をむむむ、と噤んでいて何か言いたげな表情。だけど、言うのに躊躇いがあるみたいだ。 「深月?」  いつもより気持ち優しめに名前を呼んでみた。そうしたら、深月が。 「ごめんなさい……」 「え?」  そう言って、ぽろぽろ涙を零し始めた。赤ちゃんみたいに柔らかいほっぺが濡れてしまう。慌ててティッシュで涙を拭き取る。  何で深月が謝ってるんだ? 謝るのは俺のほうなのに。急に襲ったりして……。 「泣かないで? どうしたの?」 「ひっく、っう」  これはしばらく涙が止まらなさそうだ。俺は深月のペースに合わせることにした。そういうのも、深月なら苦じゃない。それが多分、俺の答えなんだろうけど。  数分後、涙が少しおさまってから深月の鼻を拭き取る。 「ほら、ちーん」  俺の呼び掛けに深月は躊躇っていたけど、仕方なく従ってくれた。  ほんと、俺の言うこと何でも聞くよな……。悪いこと覚えさせたくなるから、簡単に言う通りにしちゃダメって躾けたい。 「どうして深月が謝るの?」  確信に触れる質問。小さな声がプライベートシネマに落ちる。 「僕、星七くんとは良い距離感の友達でいようって思ってたのに……僕が我慢できなくて、それであんなふうに……」  んん?  何か話がズレている気がする。 「深月は悪くないよ。俺が悪い。急ぎすぎた」 「……何を?」  きょとんとする深月の両手をぎゅっと恋人繋ぎにして告げる。俺の本当の気持ち。上手く伝えられるか、わかんないけど。 「もっと深月と仲良くなりたくて、《《普通の友達》》じゃなくて、俺のこともっと特別な人って見てもらいたかったから」 「……星七くんはっ、僕の特別な人だよ」 「……」  それは、そうなんだろうけどさ。  勇気いっぱいで教えてくれたね。ほんとにかわいい。  俺は無意識に深月の艶のある黒髪を撫でた。ちょっと驚いて目を丸くする深月は子猫にも子犬にも見える。 「おいで」 「……うん」  深月がゆっくりソファから身体を起こす。俺の腕を頼りにしてソファに腰掛けた。俺は深月と向き合う形で顔を真っ直ぐ見て伝えることにした。そうしないと、鈍感で天然の深月には伝わらなそうだから。 「深月。俺、深月のことが好き。友達以上の関係になりたいと思ってる」 「ふぇ?」  深月、固まる。ひゅくって息も止まっちゃった。大丈夫かな? 「だからね、さっきのは深月のこと大切すぎて本当はもう少し我慢したかったけど、かわいすぎて無理だった」 「……えっと?」  きょとん深月。いまいち話がわかってないみたいだ。だったらもう、こうするしかないよね。  ふにゅ、とくっつけるだけのキスをした。数秒そのまま。ゆっくり離れてからもう一度。 「俺の気持ち、伝わった?」 「……」  途端に、ぼふんと音が出るくらい顔を真っ赤にする深月。つむじから湯気が昇りそうだ。 「星七くんが、僕のこと好き……?」 「うん」 「ほんと? ドッキリじゃない?」 「好きな子にドッキリなんかしないよ」 「……」  会話のラリーがようやく繋がった。けど、深月は黙っちゃった。展開が早すぎてついてこれないのかもしれない。 「深月は?」 「え?」 「俺のこと好き?」  少し意地悪してみたくて。深月、どんな反応するかな。怒る? 慌てる? 喜ぶ? 内心にやにやしながら見守ってたら、反則技を使ってきたからほんと困る。  何も言わず、俺の胸の中にぽすっと寄りかかってきた。すっぽりと俺の腕の中におさまる。そのまま背中に手を回されて完全ホールド。やばい、また変な熱が上がりそう。さすがに自制しないとやばいな。 「……僕の気持ち、伝わった?」  うわ、深月の上目遣いほんと耐えられない。かわいすぎて食べたい。これ、狙ってやってるわけじゃないんだろうけど、天然の魔性っていうか、なんていうか……。 「俺のこと大好きなのは伝わったよ」 「……ばか」 「っ!?」  今、ツンデレ発動した?   深月が初めてツンデレするところ見た。かわいい……。なんか、距離が一気に縮まった感じがする。これもう、今日の一番の収穫だよな。プライベートシネマデート誘って良かった。 「でも、ちゃんと言って欲しい。このお口で」  ぷに、と深月の柔らかい唇に指をあてる。深月はぎゅっと俺のことを抱き締める手に力を入れて、顔を上げて俺を見つめた。 「星七くん、好き」  やば。破壊力が。「好き」の2文字に深月の気持ちぜんぶが込められている気がして嬉しくて俺も抱き締めてしまった。 「これで俺たち、恋人だね」 「……うん」  照れている深月の頭をよしよし撫でてから、俺の胸に顔を埋める深月の頭に顎を乗せて休む。  結局、そのまま気持ちよすぎてプライベートシネマの終了時間までソファでくっついていた。  はあ。やっと好きって言えた。はやく、もっと先のこともしたい。けど、あんまり俺ががっついたら深月、引いちゃうかもしれないし。それと、経験ないって言ってたからやさしく、やさしく……。あーもう。抱き潰したい。  そんな気持ちを抱えたまま、その日はふにゃけた深月をタクシーに乗せて自宅まで送り届けてから、俺もタクシーの運転手に自分の家の場所を告げて帰った。  タクシーに乗っている間も、うるうるした瞳で俺の手を恋人繋ぎにして微笑んでいる深月がかわいくて仕方なかった。帰り際、一瞬だけばいばいする時にしゅんって俯いてたけど、俺が 「また連絡するから、デートしようね。約束」  指切りをしたら、深月も嬉しそうに笑ってたからほっとした。 「ばいばい。おやすみ」  タクシーの窓を開けたところから見える深月の顔。 「……うん。またね。おやすみ」  切なくて、優しくて、かわいい。  タクシーが走り出しても、見えなくなるまで手を振ってくれてた。本当にいい子すぎる。  明日の仕事も頑張れそう。  プライベートの星七の顔を、アイドルのせなの顔に切り替える。その瞬間、自分の中に2人の俺がいるのがわかる。  ハイスペでカリスマ気質の『国民的彼氏ナンバーワン』アイドルのせな。  俺様で、強引で、強気。  けど、本当の俺は普通の男。セックスも好きだし、酒も好き。深月の恋人になった俺。 「どっちの俺でも、深月は好きでいてくれるかな」  俺の心の呟きが真夜中の星の下に落っこちた。

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