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第30話 『ルル』の神ファンサもらいました(星七視点)
なんか似てるんだよなー……。
俺は新商品お披露目会の前にフェアリーブルームの公式ブランドキャラクターの着ぐるみに挨拶をした時のことを思い出す。
ふるふる震えてるのが着ぐるみの上からでもわかる。小動物みたいな子。
今、ちょうど着ぐるみがてちてち歩きで壇上に上がってきたところだ。司会者に名前も発表されたので、記者団の人たちからは「ルル」と呼ばれ歓迎ムードだ。
「はじめまして! ルル。この子がうちの新しい仲間です。よろしくお願いします」
フェアリーブルームの担当者の女性がルルのエクレアみたいな手を軽く握り持ち上げる。その瞬間、よたよたと身体のバランスを崩したのが見えて反射的にルルが倒れないよう背中を支えた。
ルル。言わなくてもわかるよ。中の人、すごく困り眉で焦ってるね。
ルルは喋らないキャラクター設定らしく、さっきからずっと無言を貫いている。自力でバランスを保つことに成功したようなので、俺はそっと手を離した。
「ルルのデザインはどなたがされたんですか?」
記者団のひとりから質問が飛ぶ。それを司会者の男性が誇らしげに胸を張って説明をする。
「弊社の広報部のデザイナーが担当いたしました」
「何をモチーフにされたんですか?」
「はい。デザイナーに聞いたところ、フェアリーブルームがパリ発の世界的スキンケアブランドとしてより多くの方に気軽に手に取って親しまれるようにと願いを込めて、丸みを帯びた柔らかい動物のキャラクターにしたとのことです」
「具体的にはどんな動物ですか? わたしには猫にも犬にもうさぎのようにも見えるんですが……」
記者団の人はそう言って少し微笑む。会場が温かな空気に包まれた。さっきまでフェアリーブルームの担当者がバリバリ商品説明をして、記者団からの鋭い質問にもハキハキ答えていた。緊張感の溢れる空間にいたからか、無意識にこわばった肩の力が抜けていった。
ブランドキャラクターひとつで、こんなに場が和むのか。
そして何より、司会者が話したように『広報部のデザイナー』かつ、このキャラクターの雰囲気は前に見たことがある。
「デザイナーからは、犬と猫とうさぎのかわいいところをぎゅっと詰め込んだ唯一無二のキャラクターだと聞いています。全体的に白く丸みを帯びた体型と、頭には垂れ耳、まんまるな目、小さな口がついています。お客様に長く愛され親しまれるようなデザインにしたと聞いています」
「「おお……!」」
司会者の説明に記者団から恍惚としたため息が洩れた。当然、記者団の視線はルルに集まる。ルルはちょっぴり照れたように固まり、一生懸命右手と左手をぶんぶん振って『うれしい』アピールをしていた。
ルルの中の人、絶対深月だな。
俺は込み上げてくる笑いを抑えるのに必死だった。仕事中ににやけるわけにはいかない。
不意に、司会者がルルに提案をする。
「ルル。フェアリーブルームの担当者の方からのリクエストだ。その場でくるっと回って全身を見せて欲しいそうだ」
突然のリクエストだったんだろう。ルルはびくっと身体を揺らしてから、こくんと頷き右回りでゆっくり円を描くようにその場でまわりはじめた。
……大丈夫か?
だいぶ動きが遅い。
そんな大ピンチのルルにあおとが助け舟を出した。
「ルル。おいで。こっちだよ。ほら、くるりん」
「……」
あおとがルルの手を掴み、くるりんとその場でまわす。あおとはダンスではターンが得意で、人をまわすほうも得意なのだ。ルルは無事にあおとのサポートもあって、全身をくまなく記者団とフェアリーブルームの担当者にお披露目することができた。
「ほんとうにかわいいですね」
記者団のひとりから声をかけられ、ルルは再び軽くおじぎの動作をした。
◇◇◇
「本日の新商品お披露目会は以上となります。Milky Wayのおふたりありがとうございました。最後に撮影に入ります」
司会者の言葉に、俺とあおとはぺこりとおじぎをして撮影に入る。フェアリーブルームの担当者の女性とのスリーショットを撮り、俺とあおとの写真も記者団が撮影していく。そして、ルルも一緒に撮影に入った。
中の人が撮影に不慣れなのが着ぐるみの上からでも明らかにわかるので、俺とあおとがサポートに入る。
20分ほどの撮影タイムが無事に終わり俺たちはその場で軽くおじぎをした。
「ありがとうございました」
記者団からの温かい拍手に背中を押されて壇上を降りると、後ろをついてくるルルが俺の背中に顔をぶつけてよろけた。
「大丈夫か?」
転ばないよう手を握りしめると、ルルは焦ったようにその場から去っていった。相変わらず、動きはとてもゆっくりだが。
「すごい。逃げ足もゆっくりなんだ。ルル」
あおとがふむふむと頷いている。
「明らかに素人だよな、中の人」
「うん。それはそう。でも、かわいかったでしょ?」
「……まあな」
俺がそう呟くと、あおとは目を丸くして瞬きをした。
「珍しい。カリスマアイドルモードのせながオラオラしてないなんて……。プライベートモードのせなはすっごい優しい口調だし表情もやわらかいのに。アイドルの時はちゃんとキャラ保ってるよね」
「仕事だからな」
「相変わらず真面目だなあ」
そんなやりとりをする俺たちの真横を、司会者の男が足早で過ぎ去っていった。さっき、ルルが歩いていった廊下だった。
「2人ともよくやった。さっきフェアリーブルームの担当者からもお褒め言葉をもらった。外に1台ずつ車回してるから、今日は直帰だ。明日は予定通り1日オフだからゆっくり休め。来週のファンミーティングに備えて体調整えていくぞ」
俺たちのマネージャーの|工藤《くどう》に報告を受け、控え室に戻って帰る準備をする。けれど、俺はどうしてもルルの中の人が深月か確認したくて、少し運転手に待ってもらうことにした。
「せな。お疲れ」
「ああ。またな」
控え室の廊下であおとと工藤と別れて、自分の持ってきたショルダーバッグを肩にかけて、控え室に『ルル』と書かれた紙を発見して心の中でガッツポーズをとる。
この部屋に深月がいるはずだ。
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