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第33話 おはチューって何?

 なんだろ。  なんかすっごくぽかぽかしてる。  身体、熱いな。あと、ちょっと重みが……。  でもなあ、まだ寝てたいな。心地いいし。なんか安心するし。  あとね。なんかいい匂いする。  ずーっとかいでたいな。優しいホワイトリリーの香り。  僕は眠たい目を擦って、ふわぁと欠伸をひとつ。  その瞬間、身体をぎゅっと抱きしめられていることに気づいたのです。 「……あれ? ここ、どこ?」  見知った筋の浮いている腕の筋肉に囲まれている僕。胸の前でぎゅっと包まれて、離れられない。  小さいランプが何個もついてるオシャレな天井のライトを見るに、僕の家ではないことは確かだった。ベッドに目を落とせば、白くてふわっふわのもふもふ。キングサイズって言うのかな。ホテルライクなインテリアに囲まれてすごく居心地がいい。  僕んちのベッド、こんなに広くないし。  抱き寄せてくれている人の顔をまじまじと見つめた。 「星七くん……?」  くーくー、と息を吸って吐く音が唇から洩れている。完全にすっぴんみたいだ。化粧してなくても、こんなに肌つやつや。さすがアイドルだ。  後頭部の髪の毛、ちょこんと寝癖がついてるのもかわいい。  どうしてこんな状況になってるのかはわからないけど、たったひとつ言えること。それは、大好きな人の寝顔を好きなだけ見れる特権を持っていること。 「……寝顔かわいいな。子猫みたい」  ぽーっとしたまま、まじまじ鑑賞会。  推しの寝顔なんて、何時間でも見ていられる。 「ん」  ふと、星七くんの瞼が震え始める。長い束感のあるまつ毛がゆっくりと目元に影を伸ばす。 「……おはよ」  甘いマスク、寝起きのあかちゃんみたいな顔。掠れた声。  その全部が僕の脳内をジャックした。 「……おはよう」  恥ずかしくて、少し目を逸らして返事した。星七くんは僕の頬をぷにぷにと人差し指と親指で掴むと、くすくす笑い始める。 「やっぱ深月の頬っぺたもちもちすぎ。お餅じゃん。俺はきなこ味がいいな」 「……食べちゃダメ」  朝からちょっと過激な冗談。  僕は照れくさくなって首を振る。  そしたら今度は星七くんが僕の頬を優しく両手で包んで、キスしてきた。  ほんの少し、数秒の触れるだけのキスなのに甘くて優しくてとろんと溶けてしまいそうになる。  星七くんの唇は寝起きなのにぷるぷるで、そんなところも羨ましいと思ってしまう。僕なんて寝起きの唇は乾燥してカサカサになるからリップクリームを常備しているくらいなのに。 「深月、よく寝れた?」  星七くんが毛布を剥いでベッドから身体を起こすのを見ていた。そしてぎょっとする。  星七くん、上裸だ……。  しなやかな四肢と割れた腹筋に目が釘付けになる。  ちゃんと短パンは履いてるようで少しほっとした。星七くんは首にシルバーのネックレスを付けると僕に向けて一言。 「彼氏の裸くらい見慣れてもらわないと」 「うっ……はい」  そう言って、くすくす笑いながら部屋を出ていってしまった。寝室に残された僕は今のやりとりに悶えて足をパタパタさせていた。  破壊力すごすぎ……。  恋愛の経験値なら星七くんのほうが達人レベルだろう。僕ばっかりほんの些細なことで照れたり、慌てたり焦ったりするの、ほんと恥ずかしい。年上なのに。  とにかく、落ち着いたらこの状況を説明してもらわないと……!  なんで僕は星七くんと添い寝してたのか。ここはどこなのか。昨日、タクシーで家まで送ってもらったような気がするけどそれは夢だったのかな?  サイドテーブルに僕のリュックが置いてあるのを見つけて、スマホを取り出した。時刻は朝の7時30分。なんだかぐっすり眠れたみたいで、身体もエネルギーチャージができている気がする。 「はい、お水」 「ありがとう」  にゅっと後ろから現れた星七くんがコップに入ったお水をくれた。くまちゃんの形の氷まで入っている。  至れり尽くせりだなあと和んでいると、星七くんが僕の隣に腰掛けてきた。そうして黙って膝の上に腕を乗せると、自分の顎に手を添えて口端を上げて僕が水を飲んでいるところをじっと見つめてくる。  僕は緊張しながらも、喉がからからだったから急いでコップに口をつける。もらったお水が透き通るような飲み口で一気に飲みほしてしてしまった。 「みーつき」 「うん?」  ちゅ、と油断していたら唇を奪われてしまった。空になったコップを星七くんが僕の手から抜き取る。サイドテーブルに置いてから、その手を僕の手に絡ませて恋人繋ぎにしてくれる。 「……ん」  僕は少し上を向いて降ってくるキスの雨を受け止めた。  星七くんのキスは甘くて、優しくて、柔らかい。だから大好き。  今日はもうずーっとこうしてキスしてたいなあ、なんて思ったら、ふと今日が金曜日だったことに気づき、ぷはっと星七くんのキスから逃げた。  少し驚いた表情の星七くんは、目を潤ませて僕を見つめてくる。 「もうしたくないの?」 「いや、違くて……っ今日金曜日だから、僕仕事がある、から……」  けど、帰りたくない。星七くんと一緒にいたい。  それが本音だった。 「……お仕事なら仕方ないね」  肩を落としてしょんぼり気味の星七くん。なんか今、すごくぎゅーってしてあげたくなった。だから僕はスマホを確認してメール一覧を開いた。すると、まだ出勤時刻前だというのに、夕貴部長から一通のメールが届いていた。  あの人、朝一番はやくオフィスにいるからなあ。なんて書いてあるんだろう?  メールにはこう書いてあった。 『朝比奈。昨日はお疲れ様。ルルの中の人として上手くやりきってくれて、部署の皆も助かったと言っている。そこで、今日は一日仕事を休んで体調回復に努めてくれ。かなり汗もかいていたし、部下の体調管理も上司の俺の役目だ。特別休暇という形で上には申請しておく。ゆっくり休め。また来週の月曜からオフィスで待ってるぞ』  ……さすが部長。よく見てくれている。最高の上司だ。  僕は感動したままスマホをぎゅっと握りしめていた。だからだろう、横から長い腕が伸びてきて僕のスマホを奪い取った。 「へえ。深月、お仕事休みになったんだ」 「うん。職場の人が僕の昨日の仕事の様子を見て配慮してくれたみたい」  星七くんはにやりと唇を引き上げると僕の身体をベッドにゆっくり押し倒した。重力で落ちてきた冷たいチェーンネックレスが僕の首に当たって気持ちいい。 「じゃあ今日は俺と一緒に過ごせるね。朝チュー、俺はまだ物足りないから」 「……うん」  その後はもう、さっきのキスの続き。酸欠になるくらい何度も唇を重ねて、舌まで入れられて口端から零れる唾液を止められなくて、頭が溶けそうだった。  意識が飛ぶんじゃないかと思っていたけど、星七くんは強引なりに僕の酸欠具合を見て手加減してくれる優しい人だから。僕は安心して全身の力を抜いて身を任せることにした。 「ごちそうさま」 「……」  キスに満足したのか、数十分後に星七くんがぺろっと舌を舐めて離してくれた。僕ははあはあと上がる息を抑えきれずに、ひしっと星七くんの腕に手を回してくっついた。  こんなに幸せな朝を迎えるのは、初めてだった。

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