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第34話 おかわり!!

 その後は2人してベッドの上でごろごろ。手足を猫みたいに伸ばしていたら、脇をこちょこちょ攻撃されて僕もむむっとなって星七くんに反撃。  かぷっ、と星七くんの人差し指を甘噛みした。その直後の星七くんの顔、たぶん一生忘れない。 「……!」 「星七くん?」  耳まで真っ赤にして、目元も真っ赤っか。星七くん、照れてる?  僕は嬉しくなって、今度はちゅーっと星七くんの指を吸った。 「待って、たんま!」 「……うー」  焦る星七くんを見て、こんなころころ表情が変わる彼氏ってかわいいなんて思っていたら。 「もうほんと、そういうの反則」 「へへ」  にゃにゃ笑いをする僕を、星七くんは愛おしそうに見つめてくれる。大きくて、アーモンド型の綺麗な瞳で。その瞳の中でなら、僕は星七くんの一番星になれた。  例え、星七くんが国民的彼氏No.1アイドルで、一般人の僕でも。  この瞬間だけは、独り占めできる。 「はぁ。甘えんぼうの深月に付き合ってたらお腹すいてきた」 「……僕も」  お互い、ぐーっとお腹が鳴った。それはハモって僕らに笑いを届けてくれる。目を合わせて、くすくす笑って。  こんな何気なくて愛おしい日常がずっと続いていけばいいのに、なんて願った。 「出前でも頼む?」 「あのね、僕作りたいな」 「え? 作ってくれるの?」 「うん……昨日、色々介抱してもらったし、そのお礼」  ふわっと笑う星七くん。目尻が垂れて優しい笑顔。 「やった。そうしたら俺手伝うよ」 「ありがとう。じゃあ早速キッチンを見せて欲しいな」 「りょーかい。たいしたもの無いと思うけど……」  手を引かれて、キッチンへ。  無機質インテリアっていうのかな。白と黒、そしてガラスを基調とした大人の雰囲気のお部屋。 「はい、どーぞ」 「……お野菜いっぱい。きのこも、鶏胸肉も」 「簡単なのしか作らないし」 「この食べ物たちが星七くんの身体を作っているのかあ」  ふむふむ、と唸る僕。  当人はけろっと言っていたけど、この栄養バランスの高い食事を継続することは簡単ではない。  きっと、健康第一と体型維持のために食事にも気を遣っているんだろうな。すごいなあ。さすがアイドルだ。 「はい。お手伝いする前に俺のエプロン貸したげる」 「わっ」  黒と白のチェックのエプロンを僕に着せてくれた。不意に抱き寄せられて僕は思わず目を伏せた。  だってこんなの、あまりにも……新婚さんみたいだもん。  幸せすぎて時間停止したらいいのに。  すっ、と星七くんの温もりが離れた。少しだけ寂しいけど……わがままな子にはなりたくない。  僕は鶏胸肉の皮を剥ぎ、一口大にキッチンバサミでカットする作業を星七くんに任せて、きのこの下処理を始める。石づきを切り落として、指で丁寧にえのきとしめじを解して鍋にイン。お水を入れてひと煮立ちさせる。  料理中、星七くんが昨夜の経緯を教えてくれた。  僕は昨日、ルルの着ぐるみを脱いで星七くんに介抱してもらった後、車に乗せてもらい自宅まで送り届けてもらったそうだ。  けれど──。 「深月ってば、何回も名前呼んだり肩とんとんしたのに爆睡してたよ。だから仕方なく、俺の家にお持ち帰りした」 「お持ち帰りしたって……」  やんちゃな言い方に思わずツッコミを入れてしまった。星七くんはくすくす笑いながら鶏胸肉をカットする。手際が良くて、ほぼ同じ大きさにカットされていて料理上手な印象を受けた。 「じゃあここ、星七くんのお家なんだね。すごくおしゃれだね。芸能人の家ってこんな感じなんだ」 「別に、だいたいこんなもんじゃない? むしろ俺は深月の部屋のほうが気になるけど」 「えっ。いや僕の部屋はこんなに広くないし……キッチンだってほんとに狭くて……」  まさか会話の矛先が僕の部屋に向かうと思っていなくて、言葉に詰まる。その瞬間、苦い思い出が蘇ったけど首を振って意識を今この瞬間に戻す。  今は星七くんという頼もしい彼氏がいるんだから、過去のことは気にしない。星七くんに失礼だよ。  自分に戒めるように、鍋のきのこたちを菜箸で混ぜた。  そこから数十分後に朝ごはんが完成した。 「わ、うまそ」  2人がけの白い丸テーブルに料理を並べる。しめじとえのきの酢の物、鶏胸肉のタンドリーチキン風味、わかめとお麩の春雨スープ。星七くんの家の冷蔵庫にあったもので作った。お口に合うといいけど……。 「ほら、一緒に食べよ。座って」 「あ、うん」  洗い物途中だった僕は声をかけられキッチンからリビングへ移動する。ぱたぱたとスリッパを鳴らして出来たての朝ごはんの前に座る。星七くんが僕を見つめている。柔らかい眼差しで。  そんなに見られたら、緊張する。  でも、視線は逸らしたくなくて。瞬き、多いかな。僕、緊張すると目が乾くから。 「いただきます」 「っいただきます」  両手を静かに合わせて、一言。その言葉がとても優しくて、あたたかくて。僕は内心うるっとしながら、タンドリーチキンを口に運んだ。 「うま」  星七くんもタンドリーチキンから食べたらしい。目を丸くさせて興奮気味に僕に話しかけてくれる。 「やばい。鶏胸肉か? ってくらいしっとりしてて感動した」 「カレー粉と無糖ヨーグルトをソースにしてるからね。お肉が柔らかくなるんだと思う」 「すごい。さすがシェフ。やばい、箸が止まらなくなる」 「ゆっくりでいいよ。おかわりあるし」  子どもみたいに無邪気に朝ごはんを食べてくれるから、作った側からするとこれ以上の嬉しい反応はない。  酢の物も春雨スープもすぐに平らげてしまった星七くんは、空の器を持って僕に手渡す。 「おかわり!!」 「っ!」  きゅん、と胸を矢で射抜かれた。  無邪気な笑顔と元気な声。僕の作ったものをたくさん食べてくれるところ。全部が好きでたまらなかった。  僕は照れ笑いを隠しきれずにキッチンへスキップしながら向かって、おかわりをよそった。

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