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第35話 お風呂上がりのドライヤーとアイスと君(前編)
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
2人で両手を合わせて空になった器をキッチンへ持っていく。
「シャワー浴びてきなよ。昨日、汗かいたままでしょ」
「あ、うん」
当たり前のようにお皿洗いを始めた星七くん。
やっぱりこういう気遣いできるとこ、好きだなあ。
「バスタオル、浴室にあるドラム式洗濯機の上に置いてあるから使って。廊下を歩いて右側にスライド式の白いドアがある。そこがお風呂場。それと服、洗濯機の中入れておいて。後で洗っとく」
「ありがとう。じゃあ浴びてくるね」
「ごゆっくり」
洗い物の手を止めずに星七くんがにこりと送り出してくれる。僕はホクホクとした気持ちで廊下を渡り、お風呂場のドアを見つけて静かにスライドさせた。
「広……!」
大理石柄の床、清潔感のある浴室。僕はくんくん、と自分の着ていた服の匂いをかぐ。
昨日たくさん汗かいたし……くさいって思われたらやだしな。早く入っちゃおう。
僕はぽぽい、と着ていた服を全部ドラム式洗濯機に入れてシャワールームへ入った。お湯を手にかけて熱さを確認する。適温になってから頭からお湯を被る。
「あったかい……」
シャワールームにもくもくと白い湯気が立ち上る。高級そうなシャンプーとリンスを使って髪の毛を洗う。
さっぱりとしたグリーンアップルの香り。いい匂い。爽やかな気持ちになれる。
最後に本命のボディソープ。泡で出るタイプで助かった。もこもこの泡を全身に塗りつけて優しく手で洗う。ふわふわの泡に包まれるとなんだか癒される。雲の中にいるみたい。
そんな風に和んでいたら、不意に浴室のドアがスライドする音が聞こえた。慌てて後ろを振り返る。シャワールームのすりガラスに人影が浮かぶ。
「深月。洗濯物まわしとくね。乾燥もできるから、お風呂上がったらとりあえず俺の服貸すね。今置いたから後で着て」
「う、うん。色々ありがとう……!」
「いいえー。そうだ。髪の毛、後でドライヤーしてあげるから、お風呂出たら声かけてね。リビングのソファにいるから」
「ありがとうっ」
「うん。じゃあ後でね」
するる、と再びスライド式のドアが閉まる音が聞こえた。僕は心臓ばくばく。イタズラ好きな星七くんがお風呂に突入してくる可能性も視野にあったからだ。けれど、今日は紳士的な様子で僕の変な妄想でとどまったのでほっとした。肩の力が抜ける。
むしろ、襲われるのも悪くないな……なんて。
僕はいつから破廉恥な子になってしまったんだろう。
ズバリ、星七くんと出会ってからだな。
うんうんと自分を納得させながら、泡をシャワーで流した。
「はあ。さっぱりした」
髪の毛の水気を軽く手で絞る。お風呂にお湯は溜まっていなかったからシャワールームから出ることにした。シャワールームのドアを開いて床を見れば、足ふきマットまで用意されていた。
星七くんの気遣いに感謝しながら、白くてふわふわのバスタオルに身をくるめる。吸水力が僕の家にあるやつとは段違いだ。水気がさっと吸収されていく。
僕もこのタオル欲しいな。おそろいにしたい。そうすれば、家に一人きりでも星七くんのこと傍に感じられそうだし。
ドラム式洗濯機がごうんごうんと回っているのが丸い窓から見えた。僕は洗濯機の上に畳まれた星七くんの洋服を手に取りちょっとだけ匂いをかぐ。
「……星七くんの匂い」
服を持つ手に力が入る。湯冷めしないようささっと下着とハーフズボン、Tシャツを着た。サイズはぶかぶか。やっぱりね、という納得感。そりゃ、身長差が20センチもあるもの。でも、なんかこういうの彼シャツ状態だよね。星七くん、喜ぶかな……?
鏡に映る自分の頬がぽうっとピンク色になるのが見えて首を横に振る。
いけない。僕はいつからこんな破廉恥なことを想像するようになったんだ。
2度目の問いに自問自答する。
うん、やっぱり星七くんに出会ってからだ。こうやって、相手の反応をわくわくしながら伺うところとか。
今までこんなふうに相手に好かれたいだとか、気にいられたいだとか幼馴染以外に思ったことなかったな。
何ヶ月も経ってから、僕はようやく幼馴染への執着を捨て去る心の余裕が持てた。
今の僕には星七くんという大切な彼氏がいる。だから、過去のことを思い出しても今の時間がもったいなくなるだけ。
今はただ、星七くんの隣にいれることに感謝して、1日、1秒を愛してると伝えたい。言葉にするのは恥ずかしいけど、行動でなら伝わるはず……!
僕は彼シャツ状態のまま、浴室から出て廊下を渡りリビングへ向かった。足を前に出す度に胸が高鳴る。
どんな反応するかな?
喜ぶ? 戸惑う? 照れる?
なんでもいいや。星七くんのありのままの反応なら。それだけで幸せって言える。
では、深月。行ってまいります!
期待と興奮を胸に、僕はリビングに駆け込んだ。
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