36 / 38
第36話 お風呂上がりのドライヤーとアイスと君(後編) (星七視点)
「お風呂上がったよ」
「ああ、深月……!?」
うそ。
2度見した。だって深月の着てる俺の服、ほんとぶかぶかで。彼シャツ状態だったから。
こんなに体格差あったんだ、とか。
深月、お風呂上がりでほっぺた上気しててかわいい、とか。
濡れた黒髪がツヤツヤだとか。
そんなことばかり考えてしまって言葉が出てこない。
「わかった。ドライヤーするからソファ座って待ってて」
「うん。ありがと」
余裕そうに振舞って見せておいて、ドライヤーを探しに行く間、心臓がどくんどくんってうるさい。耳の近くに鼓動を感じる。
「やばいな、ほんと」
あれも無意識なんだろうか。
だとしたら天性の男キラーだ。
リビングに戻ると、深月はさっきまで俺が見ていた音楽番組をじっと見ていた。
「これ、Milky Wayが出てる?」
「そう。俺らの新曲。先週放送された回」
深月は注意深くテレビの中の俺と目の前にいる俺を見比べている。なんか、小動物みたいな動きでかわいいんだけど。
「アイス食べる?」
ついでに冷蔵庫に寄って持ってきた棒アイスをチラつかせれば、目をきらきらさせて手を伸ばしてくる。
なんか子どもみたいに素直だ。
「食べたい。ソーダ味?」
「そう。ラムネも入ってるやつ。美味いよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます!」
袋を取ってぱくりと一口アイスにかじりついた深月。
黒猫がアイスを舐めてるみたいに、見てて癒される。
ほんとうに俺が実家で飼っていた黒猫のクロに似ている。思わず、深月の髪を撫でた。深月はドライヤーするための準備だと思っているようで、静かにアイスを味わっている。
ぷるぷるの水桃みたいな唇。ちらりとのぞく紅い舌。
無性にキスがしたくなった。けど、髪の毛濡れたままにしたら風邪ひくだろうし。
俺は自分の衝動に蓋をしてドライヤーで深月の髪を乾かしていく。気持ちよさそうに目を細める深月。ソファの上で後ろから抱きしめるかたちで髪を乾かしてあげる。
なんかこれ、ほんとに彼氏との日常って感じで幸せすぎる。
10分ほどドライヤーで乾かしたら、キューティクルちゅるちゅるのうるツヤ髪の出来上がり。
「すごい。髪の毛しっとりしてる。シャンプーとかリンスがすごく良かったんだね。あと、星七くんのドライヤーとっても気持ちよかった。寝ちゃうかと思った」
そう言って食べ終えたアイスの棒をひらひらと振る深月を見たら、抑えられなかった。
「っん!?」
「……」
無言で深月の唇を奪う。そのままソファに押し倒す。深月は暴れることはなくただ静かに俺からのキスに応えていた。
最初は優しく、なんて思ってたのに理性が吹っ飛んでもうどうでもよくなる。だから俺は数度、唇を重ねた後に舌を滑り込ませた。
「っ」
甘く息をつく深月。目を閉じて、全身を俺に預けてくれている。それにだぼだぼの俺の服。いつもとは違うギャップにやられて止まれなくなる。
……ソーダ味のキスだ。
ともだちにシェアしよう!

