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第34話 誰かの推しになれたかな

「はい。最後の10枚目でーす。はい、みゃうみゃう」  ぱしゃ、と乾いた音を立てて撮影したツーショットチェキが出てきた。  九重くんが撮影担当をしていたので安心して任せることができた。先程の2人のお客さんはきゃっきゃっと盛り上がりながら僕と撮った写真を片手に笑いあっている。そして再度歩み寄り溢れんばかりの笑みを浮かべた。 「守須ちゃん。一緒に撮影してくれてありがとう。これ私の宝物にするね。一生懸命お話してくれて本当に嬉しい。このあともお仕事頑張ってね」 「あ、ありがとうございます」  まさかここまで丁寧にお礼をしてくれるとは思わなくて僕はどきどきしながらお客さんからの言葉を胸に刻んだ。 「今年の天満高校の文化祭の圧倒的なんばーわんの推しは守須ちゃんで決まりだから」  「推し」という言葉に照れている自分がいた。  今までの僕は心無いクラスメイトから『もやしくん』と呼ばれてからかわれたり、掃除を押し付けられたりと寂しい日々を送っていた。  けれど今、いろいろ巡り巡って文化祭の出し物のキャストとして奮闘している。  引っ込み思案で大人しいタイプの自分がまさかここまでお客さんと話せるなんてまるで夢みたいだった。なにより、お客さん一人一人が僕と話していると笑顔になってくれたり喜んでくれる姿を見ると胸が熱くなるのも事実だった。  その後も僕目当てのお客さんが多く足を運び、店内は満員御礼の状態だった。  廊下に並ぶ列は途絶えることなく、九重くんによると約40分待ちらしい。それを聞いた他のキャストも気合いが入り、いたるところで楽しげな笑い声が飛び交っている。  僕は午後1時になってから1時間休憩をもらった。裏方で手荷物をまとめて移動する準備をする。エアコンの効いた映画研究同好会の部室でお昼ご飯でも食べてゆっくり休もうかと思っていたところ、後ろから肩を叩かれて振り向く。  ぷに、と頬っぺに骨ばった指が押し込まれていた。こんなことをするのは玲乃に違いないと思って顔を見上げると、意外にもその指は別の人物のものだった。 「おつかれ守須。俺も休憩1時間もらったからこれからメシ行かない?」  無邪気な少年のような笑顔を浮かべる九重くんに僕は曖昧に笑って断ろうと思った。するとそれを遮るように別の腕が後ろから伸びてきた。  ふわりと鼻をつくアプリコットバニラの香水の匂い。その匂いを感じただけで心だけでなく身体も落ち着く。張り詰めた僕の緊張をすべて溶かしてくれる。 「九重。睦はこれから俺と用があるからダメ」  玲乃の牽制するような瞳に九重くんは何かを察したのか残念そうに眉を垂らす。 「えー。先約入ってたんかぁ。それなら仕方ねえや。また今度な」  裏方から九重くんが出ていくのを見届けると、玲乃は僕の腕をとって無言で歩き出した。  裏方から出て廊下へ出ると途端にキャーという黄色い悲鳴が上がった。衣装を着たままのキャストが2人歩いているのだ。当然廊下にいるお客さんの注目を浴びる。  嫉妬するような目線。憧れるような視線。  その両方が針になって僕の全身を貫いているように感じた。  こんなふうに大勢の人から注目されたことがない僕は足が冷たくなっていた。まるでショーケースに並べられたマネキンのように他人は僕に無遠慮な視線を送っているように思えた。  値踏みされているような感覚に胸の奥が渦を巻く。そんな張り詰めた心の僕とは違って、玲乃はこうした状況に慣れているようで何食わぬ顔で廊下を突き進んでいく。  僕は人とすれ違う度に頭から爪先までじろじろと見定められていると感じてあまり気分が良くなかった。だから早足で部室へ向かい、部室に入ると無意識に安堵の溜息を洩らしていた。  部室には他の部員の姿は見当たらなかった。少しほっとした。学校内で玲乃と二人きりのところを見られるのは抵抗があった。  内緒の友達として玲乃の傍にいられるのが僕の特権だからだ。玲乃と僕が実は幼馴染で互いの部屋にも入り浸るくらいの仲だと他の人に知られたくなかった。大切な宝物は決して他の人に見せずに自分の部屋だけでこっそり鑑賞していたいから。

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