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第35話 嫉妬に狂う玲乃(R15)
「ねえ。さっきのあれ、なに?」
とん、と玲乃が僕を壁際に追い込み壁に手をつける。真顔の玲乃を見て自分は何かやらかしてしまったのだろうかと不安になる。
「あれって?」
おそるおそる口を開くと玲乃は不貞腐れた顔をして僕を見つめた。
「九重だよ。前も言ったけど距離近くてやだ」
「……うん。ごめん。向こうはたぶんフレンドシップのつもりなんだと思う。僕以外にもボディタッチ激しいよ。九重くん」
「……ふうん」
僕が玲乃の目を真っ直ぐ捉えて答えたのを見て、不貞腐れていたその表情が少し和らいだ。
「それならまあ仕方ないか」
独り言のように呟くと今度は僕の衣装のメイド服に触れてきた。白いエプロンの部分をすーっと華奢で骨ばった指がなぞる。ごつごつとしたシルバーのリングを幾つか付けていてそれが光に反射して輝く。きっと自分には縁がないくらい高い指輪なのだろうと僕は推測する。
玲乃は昔から周りの皆が羨むような品を軽々と身にまとっていた。それを羨望として見つめるか、嫉妬として見るかで玲乃への人あたりが変わるのをすぐそばで見てきた。
玲乃はたとえ相手にマウントを取られてもどこ吹く風といったふうに流すことができる稀有な男だった。僕はそんな他人に左右されない自己を持つ玲乃のことが本当に頼もしくて、いつか自分も玲乃みたくなりたいと思ったものだ。
昔話に耽っていると玲乃の指先はどんどん下へと降りていき、ついに僕の腰を支えて、スカートの裾にたどりついた。僕は玲乃の妖しげな手の動きに翻弄されて言葉が出てこない。だんだんと顔も近づいてきて、自分の心臓が跳ねる音がやけに大きく聞こえた
「はあ。ほんとかわいい。食べちゃいたいくらい」
耳もとで囁かれた言葉に僕の全神経が反応した。背筋がぴくと跳ねて全身が熱を帯びる。甘くとろけそうな言葉に吐息混じりの低音が腰の辺りに響いた。
「や……食べちゃやだ」
僕が言えたのはそれだけだった。
「やだって言われるとしたくなる」
「待っ──」
耳もとに触れられただけで、身体が言うことをきかなくなる。息がかかる距離に、頭が真っ白になる。
「っ!」
僕は何かにすがりつかなければ身体ごと宙に浮いてしまいそうな感覚になり、咄嗟に玲乃の腕を掴んだ。
壁に背中を押し付けて少しでも玲乃から離れようとするが、向こうは逃がさないと言わんばかりに僕の腕を壁に縫いつける。
「あ……う……耳、息が当たってくすぐった、い……から」
吐息混じりの僕の言葉に玲乃は「ふうん」と意地悪な笑みを浮かべて
「くすぐったいの? 気持ちいいの間違いじゃない?」
と訂正してきた。
これ以上続いたら、きっと元には戻れない。
そう思ったのに、止めたいのか、止めてほしくないのか、自分でも分からなかった。
僕はまるで自分の心と身体の声が玲乃に聞こえてしまっているんじゃないかと思い紅い顔をさらに赤面させた。頭のつむじから湯気が出てきそうに熱い。それではまるでやかん人間だ。
「そんなに顔真っ赤っかにして。この衣装のメイド服も丈がかなり短くて太もも見えてるよ。はー……かなり際どいし……俺のこと誘ってる?」
獲物を見据えるように鋭くなった瞳に見つめられると動けなかった。
「さ、誘ってない……」
「言葉では否定してても、そんな顔されると勘違いするよ」
くすくすと玲乃が笑い出す。さっきまでの妖しげな雰囲気はいつのまにか消えていて、壁に押付けていた僕の身体を玲乃が離してくれた。
「まさか睦が女装するなんて思ってもみなかった。とっても似合っててかわいい。だから他の奴には見られたくない」
玲乃はそう言うと僕の髪の毛をさらりと撫でながら呟いた。
「この髪型もみんなに見られたくないのに。みんなが睦のかわいいところに気づいたら俺、どうにかなりそう」
冗談として聞いていいのか、玲乃の本心として聞いていいのか判断に迷った。僕は恥ずかしさのあまり目を合わせられずに
「……僕もだよ。僕も同じ気持ち。こんなにかわいい玲乃のこと他の人に見られたくない」
と零した。
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