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第39話 鬼嫉妬モードの玲乃
僕は目の前の葉月先生にそれが見えていないか不安になって玲乃をちらりと見上げた。しかし玲乃はそんなの気にしていないと言わんばかりに食べ放題コース〈極〉のメニュー表を眺めている。僕は注文用のタブレットを近くに寄せて玲乃に声をかける。
「食べたいのあったら注文番号教えて。僕が打つよ」
「おー。さんきゅう」
玲乃はぱらぱらとメニュー表を一通り眺めると僕に上タン、はちみつ胡椒豚カルビ、ユッケの注文番号を伝えた。僕はそれを打ち間違いのないように慎重にタブレットに入力する。
「うん。できた」
注文確定ボタンを押してから玲乃を見つめると、なぜかぱちりと目が合ってしまった。まじまじと見つめられて僕は「えっと」と目線を逸らす。すると玲乃は僕の前髪をくしゃりとかきあげた。
「なあに。眉毛いつもと違うね。それにアイライン引いてる? 唇もいつもより血色感あるし、メイクした?」
僕はきゅ、と自身の手のひらを握りしめた。実は玲乃の言う通りで今日初めてメンズメイクをしてみたのだ。クラスのみんなには何も言われなかったから気づかれないと思っていたのに。僕は照れ笑いを浮かべてパイナップルジュースの入ったグラスを持ち上げる。
「うん。文化祭で西園寺さんにメイクしてもらっていつもと雰囲気が変わって気分が上がったんだ。自分でもドラッグストアでコスメを買ってメイクしてみた。……変かな?」
内心どきどきしながら聞いてみれば玲乃は
「いーんじゃない?」
と自身の顎に手を置いて僕を再度まじまじと見つめてきた。そしてテーブルの下で不意に僕の手を掴んできた。僕は目の前でガツガツとご飯を頬張っている葉月先生に気づかれないかはらはらした。
一方の玲乃は気にする様子はまったくないようで、提供されたお肉を網に置いて焼き始めた。指先を絡めて、にぎにぎと2回強く握られる。僕もそれに返事をするように、にぎにぎと2回手を握った。なんだか秘密の合図みたいで、恥ずかしくてたまらないはずなのに嬉しい。
僕は自分の手のひらにじっとり汗が滲んでいないか、そればかり気になった。そんな時、九重くんが僕たちのテーブルの前に現れた。はっとして手を離そうとすると玲乃にさらに強く握りしめられた。決して離さないと言わんばかりの強さだった。
「玲乃ー。どう? 葉月先生と食う焼肉。格別美味いだろ」
九重くんが玲乃の肩に腕をまわしてきた。それを見て僕の心は鈍く固まるような心地がした。心の奥を、冷たい風が撫でていった。
なんだろう。これじゃまるで九重くんが玲乃に触れるのが嫌みたいな……。
自分の心と向き合っていると玲乃は1度箸を置いて九重くんに鋭い目線を送った。
「お前、スキンシップ激しすぎ。くっついてくるのだるいからやめてくんない?」
隣で聞いていた僕は玲乃の声の低さに、これは本気だと直感した。九重くんの受け答えを注視する。
「えー。別によくね? 男同士じゃん」
へらへら笑う九重くんに玲乃の眉間に深いシワが刻まれるのを見てからはあっというまだった。
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