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第40話 【緊急事態】玲乃がお熱

「ゔっ」 「男同士だろうが関係ないよ。見てて不快。俺の見てるとこでそれやったら……わかるよね」  玲乃が立ち上がり、九重くんの胸ぐらを掴んで持ち上げた。九重くんの足が床からふわと浮き苦しそうに眉を顰めている。流石の葉月先生も目の前で喧嘩が始まったのを見て仲裁に入る。 「おいおい。今回はお祝いの席だ。店の中だし面倒かけさせるな」  呆れたような葉月先生の声に玲乃は静かに九重くんから手を離す。すると僕の耳もとにそっと口を近づけた。 「帰ろ。疲れた」  玲乃の表情がなんとなくいつもの余裕のある顔じゃなくて、僕はこくりと頷き玲乃の手荷物と自分のトートバッグを持って席から立ち上がる。九重くんはバツが悪そうに玲乃を見つめた。 「悪かった。今後気をつける」  玲乃は九重くんの言葉が聞こえなかったようなふりをして店の出口へ足を運ぶ。僕は葉月先生にぺこりとお辞儀をして玲乃の後を追いかけた。幸い、クラスのみんなはそれぞれのお喋りに花を咲かせていて九重くんと玲乃との対立に気づいていないようだった。  焼肉屋さんは玲乃と僕の最寄り駅のすぐ近くにあったので、そのまま家の方向へと足を進めた。その間、玲乃は無言だった。もしかしたら機嫌が悪いのかもしれない。あるいは、インフルエンサーの仕事に疲れてへとへとなのかもしれない。  マンションのエントランスについてから僕は気遣うように玲乃の肘を掴んだ。 「玲乃。大丈夫?」  玲乃は一瞬目を見開くとそのまま瞳を閉じた。 「やばいかも。このままひとりで帰ったら死んじゃう」 「え!?」 「死んじゃうのは嘘。けど睦とは一緒にいたい」  普段より力なく呟く玲乃を見て僕はなんだか心配が募ってきた。玲乃は歩くのもやっとの様子で、僕に体重を預けるようにしながらエレベーターに乗り込んだ。  心なしか玲乃の顔が火照っているように見える。僕は玲乃の部屋へ直行するとベッドに横にならせた。 「あ。やっぱり熱あるよ、玲乃」 「……熱」  玲乃の額に手のひらを重ねる。額は汗が滲み濡れていてものすごく熱を持っていた。ぽーっと力なく僕を見上げる瞳が今は弱々しい。眼光が鋭い玲乃にしては幼い子どものような不安げな表情に見えた。 「僕の家の冷蔵庫から何か持ってくるね」  家の鍵を手に取り一旦玲乃の部屋から出ていこうとすると「待って」というか細い声が聞こえて振り返る。 「置いてかないで」  熱にうなされているのだろうか。とろん、と溶けた瞳は潤んでいる。僕は玲乃の頭をよしよしと撫でてから安心させるように微笑む。 「大丈夫。5分で帰ってくるからね。ちょっとだけ我慢してて」 「……我慢する」  玲乃はゆっくりと瞳を閉じて枕に頬を押し付けた。

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