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第46話 波乱の修学旅行START
そして修学旅行の日を迎えた。
2泊3日分のパッキングを済ませたキャリーケースを引いて東京駅へ向かう。僕は自分の身なりを姿見でチェックしてから玄関のドアを開けた。
寝癖なし。服のシワもなし。靴紐もきちんと結んである。
血色感のある桃色のリップで少し顔色を良くしておいた。夏休みの間、塾と家に引きこもっていたので日焼けせず、元から白い肌がさらに青白くなったように見えたのだ。
「おはよ」
ドアを開けると、制服のワイシャツの上に灰色のパーカーを着込んだ玲乃が自身のキャリーケースに座り壁に背をもたれていた。
「お、おはよう」
久々に見た玲乃に見慣れずにそわそわしていると、そんな僕を見て玲乃がふ、と微笑を浮かべた。
「飼い主に久しぶりに会えたわんこみたいに驚いてるね」
「な……! 驚いてるっていうか、夏休みの間ぜんぜん会えなかったし……元気か気になってたから」
「そうなんだ」
僕の不器用な言葉を玲乃は静かに汲み取ったらしい。朝7時過ぎ。マンションの共有部には僕と玲乃の2人だけしかいない。不意に玲乃が僕の肩を抱き寄せてきた。ギュ、と密着した距離に心臓がびくんと跳ねる。
「はあ。会いたかった」
溜息混じりの言葉に胸がきゅうっと締め付けられる。
「僕も会いたかったよ」
玲乃が僕の肩に顎を載せながら耳もとで囁く。
「もう無理。ビタミンM不足で死にそう」
「ビタミンMってなに?」
聞き慣れないワードだった。すると玲乃はゆっくり顔を上げて僕を見下ろして目を見つめてくる。
「ビタミンMはビタミン睦の愛称」
「なるほど……」
嬉しいような気恥しいような気持ちになり目を逸らすと玲乃がぐっと距離を詰めてきた。
「夏休みの間仕事ばっかしてて全然癒されてない……。お願い。睦のことぎゅってさせて。そしたら元気になる」
朝から絶賛甘えたモード全開の玲乃に驚きながらも、僕は素直に抱きしめられるのが嬉しくて「いいよ」と許可を与えていた。
「ん」
と玲乃が息を洩らした。服越しに玲乃の体温が伝わってくる。あったかくて背中に回された玲乃の腕の中にいると安心する。
数分経ってもなかなか離してくれない玲乃に僕は腕時計を見て慌てて身体を捩った。
「玲乃! 電車の時間来ちゃうよ」
わたわたと慌てる僕をよそに玲乃は気怠げに息を吐いた。
「東京駅までタクればいいよ。ていうかもう下に呼んである。タクシー今着いたって」
「そうなの? 僕はてっきり電車で行くのかと思って……」
「キャリーもあるしタクシーのほうが移動楽ちんだから。さ、行こ」
玲乃が僕のキャリーケースも引いてエレベーターに乗り込んだ。僕は手荷物の最終確認をしてからタクシーに乗り込む。忘れ物でもしたら大変だ。
下に停まっているタクシーに乗り込むと、2人して他愛もない話をする。
玲乃は夏休みの間ほとんど仕事の都合で昼夜逆転のような日も続いていたらしく、目がしょぼしょぼとしている。
僕はそんな玲乃を気にかけ東京駅につくまで肩を貸した。玲乃はぽてりと僕の肩に頭を載せてすうすうと寝息を立て始めた。そんな穏やかなひとときが幸せだった。
僕もまだ眠気まなこでうつらうつらしていると、いつのまにか東京駅に着いていた。玲乃を起こしてキャリーケースを引きずり集合場所に向かうとそこには既に何人かのクラスメイトの姿があった。
時刻を見れば集合時間まで少し余裕がある。ほっと安堵の溜息をついていると、後ろから声をかけられた。
「おはようさん。2人とも」
「……お、おはよう」
「……はよ」
冴島くんからの挨拶に僕と玲乃が応じる。玲乃はタクシーで寝ていたため、機嫌が悪いのか素っ気なく返した。
「いよいよやなあ。俺、昨日はなかなか寝付けんかったわ」
「|子供《ガキ》だな」
低空飛行モードの玲乃の言葉を冴島くんはにこにこ笑って受け流す。僕は玲乃の不機嫌モードが冴島くんに悪影響を及ぼすのではとはらはらしていたが、さすが関西人というべきか特段気にしていない様子だった。
「ええやんか。男3人旅楽しもな!」
「うん!」
僕が胸を踊らせていると玲乃も微かに唇を引いて笑った。
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