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第56話 《番外編》赤ちゃん教室での出会い(side 玲乃 2歳)
「ねこしゃん。ないない、やぁっ」
「もう。睦ちゃんったら……もうないないしないと、他の子も猫ちゃんのぬいぐるみと遊びたがってるのよ」
「いやぁー!」
ここは、都内にある赤ちゃん教室。
その直後、びぇぇえんとむつの大きな鳴き声が赤ちゃん教室に響き渡り、他のママさんや赤ちゃんがビックリしてから笑顔になる。
「睦ちゃん。お元気ですね。2歳はイヤイヤ期ですね」
おれのママがむつのママに声をかけた。とびきりの自慢の美人ママだ。
「そうなんです……かわいいけど、なかなか言う通りにしてくれなくて」
むつは、ひっぐひっくと泣きじゃくっている。おれは、ママの膝の上で抱っこされたまま、じいっとむつを眺めた。
髪の毛、ほわほわで寝癖ついてる。かわいい。
おれはむつの唇に向けて親指を差し出した。すると、むつは「ほゃ?」とした顔をして、おれのちっちゃな親指に吸い付いてきた。
ちゅうちゅうストローみたいに吸ってくるから、くすぐったくて笑った。一生懸命おれの指をはむはむしてくる。ハムスターみたい。
「2歳児ですからイヤイヤ期ですかねえ? うちの子は逆に、王様気質と言いますか……なんだか、堂々とし過ぎているから圧が強くて、他の子が気を遣っておもちゃを貸してくれるので、申し訳なくて……」
おれのママが頬に手を添えて苦笑する。むつのママはにっこり笑顔。おれがむつを泣き止ませたのを褒めてくれる。
「そうなんですね。我が子とはいえ、他の子を見ると個性や性格が違いますから見ていて楽しいんですよね。今もほら、玲乃くんが睦ちゃんに親しゃぶりさせてくれて泣きやみましたし……主濱さんとお隣さんになってからすごく育児が楽しいです」
「ええ。わかります。守須さんがうちのマンションに越してこられたのは、ちょうど2年前。睦ちゃんが生まれてすぐの頃ですものね」
おれのママ。なんか嬉しそうだ。
むつのちゅうちゅう吸いが止まらなくて、おれの親指の血の巡りが悪くなる。ちょっと痛いから、きゅぽん、と親指をむつの口から引っこ抜いた。そしたら。
「ゔぇぇん」
むつ、大泣き。泣きじゃくり小僧になった。
「れのっ。れの!」
むつがおれを求めて精一杯手を伸ばしてくる。ぷにぷにしたほっぺたに涙がぽろぽろ零れてる。
泣いてるむつも、かわいいな。
そう思って、むつに貸していた親指を今度は自分で吸ってみた。ちゅうちゅう。むつに吸い付かれすぎて、皮膚がふにゃふにゃしてる。
甘い。むつの味かな?
「もう。玲乃ったら。ご機嫌なんだから」
おれがご機嫌なのをわかっているママがあやしてくる。ちょっと眠くなってきた。
「睦ちゃん。玲乃くんにありがとうは? 親しゃぶりさせてくれたんでしょ?」
むつのママに背中を押されて、むつがにこっと笑う。
「れの! ありやとう」
まだ、『ありがとう』って言えないんだ。
そんなところもかわいいな。
「いいよ」
おれのママも背中を優しくさすってくるから、つんとして照れくさいのを隠した。
家がお隣さんのむつとは、おれは赤ちゃんの頃から仲良しなんだ。おとなになっても、ぜったいにむつをおれのものにしてみせる。
むつの笑った顔、ひまわりみたいでぽかぽかするから。
赤ちゃんの頃から、だいすきだよ。
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