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第2話

山田さんとの初めてのデートの場所を、僕は自分の意志を固める意味で、一磨が主演する映画の、舞台挨拶付きの試写会にした。一磨の母が、僕に見に来てくれとチケットを2枚くれたのもある。僕はそれを、一磨への恋心と決別するために使おうと考えた。もちろん山田さんには、一磨が僕の知り合いだということは話していないし、一磨には、僕が試写会にいくことを知らせていない。  新宿にある映画館の前で待ち合わせをした。日曜日ということもあって、今日もたくさんの人でごった返している。僕は山田さんを見つけられるか不安になった。写真でしか顔を知らないし、お互いに目印になる物を持つとか付けるとかもしてこなかった。僕はキョロキョロと視線を落ち着きなく動かしながら、挙動不審な感じで山田さんが来るのを待った。 「湊君?」  その時、誰かに肩を優しく叩かれた。僕は驚いて振り返ると、そこには写真で見るより数倍素敵な男性が立っていた。 「え? あっ、そうです……や、山田勇二さんですか?」 「そうだよ。いやあ、驚いたな。湊君は写真で見るより数倍可愛いね」  お互いに同じ印象を持ったみたいで、僕は照れながら『山田さんもそうですね』と伝えた。  これはなかなか良いかもしれない。  僕はマッチングアプリの力に感嘆しながら、僅かに心拍数が上がるのを感じた。  映画館の中は驚くことに満席だった。客席の8割が女性で、この女性たちのすべてが一磨目当てにここにいるのだとしたら、一磨の人気は相当かもしれない。よく見ると、僕たちのような、男性二人で見に来ているような客は、当たり前だがいなそうだった。    チケットの座席番号を見ると、驚くことに最前列のど真ん中だった。僕は目立たない場所でこっそり一磨を見つめ、叶わぬ恋に終止符を打とうと考えていたのに。この展開に僕は少しパニックになりかけた。  大丈夫。気づかれたとしても、男友達と二人で見に来たと思われるぐらいだよ……。  僕はゆっくり深呼吸をすると、そう思い直した。  山田さんと最前列の席に座ると、司会者が現れ、試写会を始めると告げた。僕は一磨が出演している作品は今まで全部見てきた。見られない時は録画までして見逃さなかった。一磨の演技力はどんどん上がっている。僕はそれをリアルタイムで追いかけてきたから良く分かる。きっとこの映画で、一磨は更に成長した姿を見せてくれるに違いないと、僕は密かに期待しながら映画に没頭した。

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